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 2泊3日の短い日程の間、韓国国内の全てのメディアは彼女の一挙手一投足に注目。五輪の開会式では、ペンス米副大統領、安倍首相とともに貴賓席に招待され、韓米日首脳のすぐ後ろの席から北朝鮮選手団に笑顔で手を振る様子が各国メディアに取り上げられた。

 報道陣の前ではほとんど発言はしなかったものの、文在寅大統領との会話のいくつかは明らかになっている。

 開会式翌日に文大統領と会談した際には、文大統領から「寒くなかったですか?」と尋ねられ、「文大統領に気を遣っていただき、不自由なく過ごしました」と答えたという。さらに滞在中の昼食会でも、与正は笑顔で「大統領が統一の新しい幕を開く主役になって後世に記憶される姿を打ち立てられることを願います」と終始、文大統領をおだてるかのようだった。

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 これに気を良くしたのか、文大統領は2カ月後の南北首脳会談の席上で、金正恩と与正に向かって、このように与正を持ち上げた。

「金与正副部長は南ではスターです。ファンクラブもできたかもしれません」

 確かに、文大統領ほどではないにせよ、多くの韓国国民が、清楚なイメージで笑顔を振りまく与正の姿を好意的に受け止めた。

韓国訪問中、文在寅大統領(右)と握手を交わす金与正(2018年2月) ©AFLO

 ちなみに、彼女の訪韓にはこんな逸話が残っている。

 彼女はソウルの「グランド・ウォーカーヒル・ホテル」に宿泊したとされるが、退出後の部屋には彼女の髪の毛1本落ちていなかった、というのだ。DNA鑑定に使われることで、兄の正恩氏の体質や病気などが推察されるのを避けたのではないかとされている。

知られざる与正の「金正恩叱責事件」

 しかし、「お姫さまの与正」「笑顔の与正」は表の顔でしかない。

 注目すべきエピソードがある。彼女の夫は、対外的に元首格とされる最高人民会議常任委員長、崔竜海(チェ・リョンヘ)朝鮮労働党副委員長の次男であると言われている。ところが、その崔竜海をめぐって事件が起こっているのだ。

 2015年10月30日、金正恩が主催した労働党中央委員会政治局委員会議に出席した崔竜海は、その後のパーティーで酒に酔った金正恩から中国との外交問題や発電所の事故などについて、他の幹部の目の前で「党の責任者として良心があるのか!」と強く叱責されたという。崔竜海はストレスと怒りのあまり、帰宅途中の車中で脳溢血を起こしてしまった。

 この直後、金正恩のもとを訪れた与正は、こう言い放ったという。

「あなたは相手が倒れるまで懲らしめなければ、自分の苛立ちを抑えることが出来ないのか」

 兄に対して強く抗議し、遠慮なしに物を言う与正は、その後「舅の看病」を理由にしばらく党の業務をボイコットしたという。

 2016年から北朝鮮の党中央委員に選ばれた彼女は、その立場をはっきりとさせてきた。ハノイまでの列車での移動中、ホームでタバコを吸う金正恩の隣には灰皿を持った与正が寄り添った。平壌で行われる軍事パレードでも、前日に彼女が兄の動線を確認し、正恩に近づく者にはボールペン一本持たせなかったという。