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 北朝鮮消息筋はこう語る。

「金与正は、『白頭山血統』と呼ばれるロイヤルファミリー・金一族の血統を継ぐ一方、積極性や判断力、処世術などの高い政治的センスを兼ね備えた存在だ。いまでは、金正恩も信頼を置いている。これまでの2回の南北会談に加え、シンガポールとベトナムで行われた米朝会談にもすべて同席しているのだから。どの会談でも、金正恩は口調を整えるとき、言い淀むときには、いつも与正を見る。妹が横にいることで、彼は精神的に安定するのだろう」

 今年に入って、さらに存在感が増しつつある。3月には、北朝鮮のミサイル発射実験に対して深い憂慮を表明し、発射中止を求めた韓国大統領府に対して、金与正名義の談話を発表した。談話には、次のような言葉が並んだ。

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「低能な考えで驚愕する」
「よその軍事訓練に口出しするとは居直りの極致だ」
「言葉ひとつひとつが完璧にバカだ」
「3歳児と大して違うようにはみえない」

 首脳会談で笑顔を振りまく清楚な姿からは想像もつかない、汚い言葉遣い。韓国に対しても融和的な人物と評価されていた彼女が、韓国を批判する声明を出したのは初めてのこと。韓国国内でも、与正をどのように評価して良いのかと、動揺が広がっている。

首脳会談の会場となった、平壌・朝鮮労働党本部に到着した文在寅大統領(中央)と金正恩(右)。金与正(左)が先導している(2018年9月) ©AFLO

彼女のライバルはあの男?

 金正恩委員長の健康状態は依然として明らかになっていないが、金正恩に代わる人物は、現時点ではその血筋、能力からいって金与正しかいない。

 しかし、党や軍部の幹部らは、30歳を超えたばかりの女性である与正を後継者として受け入れるのだろうか。

 元駐英北朝鮮大使館公使だった太永浩(テ・ヨンホ)氏は、「現在の北朝鮮体制を支える60、70代の勢力にとって、金与正は若造だ」として、金平一(キム・ピョンイル)の存在を指摘している。

 金平一氏は、金正日の腹違いの弟で66歳。金正恩氏の叔父にあたる。彼は金正日総書記との権力争いの結果、1979年以降ハンガリー・ブルガリアなど海外公館を転々とさせられていたが、昨年、チェコ大使勤務を最後に40年ぶりに平壌に召還された。

 金正恩が北朝鮮国内で、彼を管理するために呼び寄せたものとみられ、いまは軟禁状態にあるとされる。

 今後、軍部などが金与正を排除し、可能性は低いとはいえ金平一を擁立するような事態になるのか。逆に、そのような動きを察知した金与正が金平一の排除に動くことになるのか。北朝鮮の内部情勢は、今後も予断を許さない。