2020年4月、政府からの緊急事態宣言を受けて、私たちは外出自粛を要請された。桜やゴールデンウィークの時期と重なったこともあり、がっかりした人たちも多くいただろう。この自粛要請は今のところ2020年5月6日までとされているが、今後延長の可能性もあり得る。
私たちは、本当にこのまま自宅に閉じこもって仕事や生活を続けることができるのか。そう不安に思う人も多いだろう。
今私たちに求められていることは、これまでの行動を変えること、つまり「行動変容(behavioral-changes)」である。この「行動変容」という言葉は、1970年代から80年代にかけて心理学の分野で使われるようになった専門用語で、新型コロナの感染拡大に伴い、最近よく耳にするようになった。
私は、文化人類学者という立場から15年近くエイズの研究・活動に関わってきた。エイズに関わってきたものにとって、この「行動変容」という言葉はとても馴染み深いものである。
今新型コロナウイルスの流行にともなって社会で起こっていることの多くに1980年代のエイズ・パンデミックと重なる部分があり(もちろん全く異なっている部分もたくさんあるが)、「どこかでみた風景」という既視感をもつ。
エイズ・パンデミック時の「行動変容」の3段階
では、エイズ・パンデミックによって人々はどのように「行動変容」したのか、歴史を振り返ってみたい。そうすることで、新型コロナウイルス時代の「行動変容」の何か参考になるかもしれない。
まずHIV流行を食い止めるために、エイズの専門家たちがとった方策は主に3つあった。①HIVに感染しないための「正しい」知識を普及し、個人レベルでの行動を変えさせること(1980年代)、②感染リスクにさらされているコミュニティの団結を促し、集団レベルでの行動を変えさせること(1990年代)、③HIV陽性者を素早く見つけ出し、薬の投与を開始することで他者への感染を防ぐこと(2000年代)、の3つである。
実はこの3つのそれぞれが、心理学、行動科学、文化人類学などの学問的理論に裏付けられた予防法であった。