なぜクマは攻撃してきたのか
今年は、これまでにないほど各地にツキノワグマが出没し、人間の被害も多発している。最大の原因は食料のブナの実の不作と思われる。私が歩いた山で今年はブナの実を一粒も見なかった。山形のある熊猟師は「クマを解体すると独特の脂のにおいがするが、今年獲ったクマは臭わない」と言っていた。今年増えた人家へのクマの出没は、「山里が少なくなり、結果として人間とクマの住処が隣接してしまったから」とも言われている。
ただ私の事故は、これらとは異質であると思う。なぜ攻撃してきたのか、素人であるが自分なりに考えてみた。動物がほかの動物を攻撃する主な理由は、防御と排除といわれている。防御は、出会い頭に出会うなどで驚いた時に自分を守るために、とっさに攻撃してくるパターン。クマに襲われる多くはこの例と思われる。排除は、子連れの母グマが子を守るため。または、発情期に自分のねらっているメスとの間に邪魔者が入った場合などの、オスの攻撃パターンとのこと。今回私が攻撃された理由で考えられることは、(1)母グマと子グマの間に入ってしまった。(2)発情期のオスグマとメスグマの間に入ってしまった(季節的には(1)、(2)どちらもありうる)という、この2つのどちらかではないかと推測される。
存在を、遠方から早くクマに伝えること
確実にいえることは、クマにも個性(個体差)があり「さまざまなレアケースがある」ということである。以前2頭の子を連れた母グマと遭遇したことがあったが、その時は子グマを置いて母グマのほうが真っ先に逃げて行った。子連れだから必ず攻撃してくるわけではなく、反対に攻撃的なクマの存在も否定できない。
クマ対策に100%はないが、事故時、鈴などは付けていなかった。人間(自分)の存在を遠方から極力早くクマに伝えることが、事故の減少につながることは確実である。人間のあまり入ることのない、渓流ではなおさらだ。あの日以来、私も鈴を付けて歩いている。
(続き【第2回】「怒り狂った母グマが猛然と私に向かってきて……『クマを蹴落とす!』《秋田・堀内沢》」を読む)