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わたしの「神回」

2020/05/09

 出会ってすぐ、岡崎さんは山本さんに心酔する。「あなたの脇役として生まれてきた」とさえ言ってのける。当初山本さんはそれを疎ましく思うけれど、自分の全てを肯定してくれるその存在に何度もなんども救われていく。それは人生にたった一人の、かけがえのない友達なのだ。

 そんな2人がひょんなきっかけで、喧嘩別れをしてしまう。突き放したのは山本さんだ。岡崎さんからかかってくる電話に、山本さんは出ることをやめた。

 それから4年間、二人は一度も連絡を取らなかった。それでも山本さんが平気でいられたのは、「かかってくる電話に出ないでいたのが自分だった」からだと僕は思う。逆だったら耐えられなかった。だって、山本さんはもう岡崎さんの存在を必要としていたから。自分を肯定してくれる岡崎さんの存在がどこかにそのまま、自分を求めて存在してくれていると信じられていたから、その4年間を耐えられた。

 だけど、やっぱり時間は残酷だ。

 4年ぶりの岡崎さんは相変わらず山本さんのことが大好きで、優しくて、全てを認めてくれた。けれどこの時もう、岡崎さんの一番は山本さんではなくなっていた。

 岡崎さんは山本さんの中を通って、今どこかへ去っていこうとする。そんな時、山本さんは多分初めて、ヒトの幸せを心から願った。

たった5冊の漫画を読んで、誰かの幸せを願うことができる

 誰かの幸せを願うっていうのは、こんなふうにして離れていくこととセットなんだなと、僕は思った。そして、こんなことを言うと嘘くさいけれど、岡崎さんの幸せを心から願っている自分がいた。それは、悪くない気分だった。たった5冊の漫画を読んで、誰かの幸せを願うことができるなんて。

 本当はもっと言いたいことがたくさんある。

 描かれる夕焼けがいかに美しいかとか、優等生だった森くんが受ける罰ゲームがいかに笑えるかとか、たくさん。だけど、もう紙幅に限りがあるからここまで。

『岡崎に捧ぐ』4巻

 そうそう、こう言っては元も子もないけれど、こんな記事を読んでいる時間があったらはやいとこ第1話「岡崎さん」を読んだ方がいい。

 もうその瞬間に、あなたの中に岡崎さんは入ってきているはずだから。

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