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2020/05/09

警察の事情聴取と新聞社の取材攻撃

 翌日、気が付くと僕は病院のベッドの上にいた。看護師さんから、お婆さんともども無事に助かったことを聞かされた。意識もはっきりと戻り、医師の診察を終え、昼過ぎに自宅に戻ると、警察の事情聴取と新聞社の取材攻撃に戸惑う。

 その晩、お婆さんのご家族がやって来て、痴呆を苦にした自殺未遂であったことを知らされる。しかし、そんな病気のお婆さんを愛して止まないご家族の姿に、少し涙が出てきた。

写真はイメージ ©︎iStock.com

 数日後、警察から感謝状を進呈したい旨の連絡があった。先生にも連絡があったようで、すぐさま連絡を取り合うが、僕らは人として当然のことをしただけで、誰もがあの場所にいたなら同じことをしただろうと辞退させてもらう。ところが、翌々日、警察署長自らが自宅に訪れたので、結局ありがたく感謝状を頂くことにした。

一歩間違えば2次災害だった

 それから10日ほど経ち、事件のことも徐々に忘れかけていた頃、お婆さんのご家族がふたたび自宅にやって来て、お婆さんが昨夜亡くなったことを告げられた。冬の岩手の海中に1時間近くも浸かったことで、風邪をこじらせ肺炎になったのだという。

 今改めて思うことは、緊急事態だったとはいえ、素人の僕らが人命救助にあたったことは、一歩間違えば2次災害を引き起こしたかもしれないということ。老人とて、海中でしがみ付かれた時の力たるや、当時クラブチームでラグビーをやり、体力に自信のあった自分の自由を奪うに充分なほど恐ろしい力であった。小・中学校にプールはなかったが、夏の体育の授業は海での遠泳。小学生の時には2kmは泳いでいたことから泳ぎにも自信はあったが、運よくロープがなければ溺れていたかもしれない。

 思い出せば思い出すほど、マジ死ぬかと思う。生きててよかった。

 どんとはれ。

(※どんとはれとは岩手の方言で、お終いの意味。2007年の4月からNHKで放送されている『どんど晴れ』では、めでたしめでたしと解説されているが、岩手を代表する昔話『遠野物語』は、めでたしめでたしで終わる話はほぼ皆無である)


(続き【第4回】氷結湖の穴に兄弟で転落。這い上がるのは困難で……『ワカサギ釣り中に落下!』《北海道・空知川》」を読む)

釣り人の「マジで死ぬかと思った」体験談3

つり人社書籍編集部

つり人社

2019年7月5日 発売

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