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「将棋の世界は、他の分野と比べて恵まれている」

「Abemaの対局は急に決まった話で、私はオンラインに関するスキルもなく不安でしたが、スタッフの方に準備してもらい、無事に指せました。おおむね好評だったと聞いていますが、素早くできることを行ってもらったことはありがたかったですね。番組のレギュラー化もあり得ると聞いていますので、多方面に広がっていくのはよいと思います」(佐藤和俊七段)

 ある棋士は「報道されるニュースなどを見ても、将棋の世界は他の分野と比べて恵まれているほうだなと痛感しています。スポーツの世界などは練習もままならないようですし。ネットと相性が良いのはこういう時に生きてくるのだなと思いました」と語った。

対局室の窓を開けて行われた、竜王戦1組決勝の羽生善治―佐藤和俊戦。すでに両者ともに決勝トーナメント進出を決めていたが、羽生が勝って1組優勝を果たした ©相崎修司

 確かに、現状ではインターネットを抜きにして将棋は語れない。棋譜の配信だけでなく対局そのものも、ネットを通して行うことは不可能ではない。かつての大和証券杯がそうだったし、またその数年前には非公式戦とはいえ、近将カップ、という棋戦も行われていた。雑誌「近代将棋」が主催して行ったものだが、当時編集部に在籍していた筆者は、まだまだネットに不慣れだった棋士が、幾度となく編集部を訪れて対局を行っていたことを思い出す。

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「どうしてもモチベーションが低くなってしまいます」

 とはいえ、盤を挟まないとモチベーションが上がらないという棋士も少なくない。AbemaTVトーナメントの解説で人気を博した藤森五段も「オンライン上のVSはやっていないですね。実際に指して気持ちを高めたいと思います」という。

 また藤森五段はこうも語る。

「公式戦ができるかどうか、というだけでなく、これまで行っていたVSや研究会もなくなりました。普段の準備は研究会のためにという面もありましたが、それがなくなったことでモチベーションを維持するのが余計に大変です。自宅にいる時間が増えても、緊張感を持てないと、実のある将棋の勉強にはつながらない可能性があります」

 ある意味で、棋士にとって一番大変なことは、対局をはじめとする仕事がなくなったことではなく、そのことによるモチベーションの低下なのかもしれない。

竜王戦5組ランキング戦の上村亘ー竹内雄悟戦(2020年3月17日)。後ろで飯島栄治七段が取材している ©相崎修司

「決まっていた王位リーグが延期となり、対局がない状況での研究はどうしてもモチベーションが低くなってしまいます」とは上村五段の言葉だが、これは多くの棋士に共通することだろう。