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2020/05/10

genre : ニュース, 国際

平昌五輪で「北朝鮮のイバンカ」に

 彼女たちの与正氏への「高評価」に一役買ったと思われるのが、2018年2月に韓国で開かれた平昌冬季五輪だった。

 金与正氏の訪韓は突然だった。弾道ミサイル発射や核実験などの挑発を続け、米国と対立を続けてきた金正恩政権は、2018年1月1日、突然韓国へ和解のジェスチャーを送ってきた。金委員長が新年の演説で、平昌五輪に「(選手)代表団を派遣する用意がある」と提案してきたのだ。

 そして実際に、金委員長は参加選手だけでなく、美女応援団とともに、与正氏を含む高位級代表団を韓国側に派遣したのだ。

 与正氏は当然ながら注目された。南北分断後初となる“白頭血統”の韓国訪問である上、与正氏の外交デビューの舞台になっただけに、仁川空港に着いた瞬間から与正氏の一挙手一投足はメディアの注目を浴びた。

 2泊3日の日程の間、常に顔に淡い笑みを浮かべた与正氏の「微笑外交」は、北朝鮮の独裁政権に対する韓国人の警戒心を解くのに大きく役立った。「明るい微笑み」「はにかむような笑い」……韓国メディアは与正氏の笑顔にいちいち名前をつけて報道する熱の入れようだった。

 米国の大手メディアも彼女の微笑みに注目した。米紙のワシントンポストは、与正氏が「モナリザの顔で韓国人の心を捕らえた」とし、彼女を「北朝鮮のイバンカ」と紹介した。米CNNも「外交舞踏会が開かれていたら金与正が金メダルを取っていただろう」と褒め称えた。

 与正氏に対する韓国政府の手厚い待遇も話題になった。与正氏は滞在中になんと4度も政府高官から食事招待を受けていた。同時期に訪韓していたペンス米副大統領と安倍晋三首相を比較し、韓国の中央日報は「金与正は4回、ペンスは1回、安倍は0」と、各国の首脳に対する文在寅政権の扱いの格差について報じた。

平昌五輪開会式に参加する金与正氏(後列右)。前列にはペンス米副大統領(左)と安倍晋三首相の姿も(2018年2月9日) ©AFLO

 この平昌五輪の印象は強いようで、「キム・ジヨン世代」の保育士の女性(34歳)は、次のように語る。

「決して印象は悪くない。むしろ平昌で見せてくれた姿を見ると、韓国との関係を改善しようとする意志が見える」

文政権がうやむやにした「毒舌談話」

 与正氏は南北首脳会談、米朝首脳会談にも同行していたが、2019年2月のハノイで行われた米朝会談後、しばらく姿を消した。

 ところが今年3月、北朝鮮のミサイル発射実験に対する遺憾の意を表明した文在寅大統領府に向けた強烈な「毒舌談話」で再び表舞台に登場した。

 北朝鮮の非核化をめぐる南北交渉で特使役を務めてきた与正氏が、韓国の大統領府に向かって、「3歳児」「低能な考え方」「完璧なバカ」などとする談話を発表。これには韓国メディアも憤慨したのだ。

 保守系の「朝鮮日報」は社説(3月4日付)を通じ、「文在寅政権は金与正氏を前面に押し出した“金正恩ショー”に対する未練を捨てなければならない」と警告した。進歩系メディアの「ハンギョレ新聞」ですら、社説で「無礼極まりない金与正の大統領府非難」(3月4日付)と、与正氏の態度を批判した。

 それでも、与正氏への批判が後を引かなかったのは、韓国と北朝鮮が「両面作戦」で火消しに回ったからだ。