世界を騒がせた北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長の「重体説」は杞憂に終わったが、その過程で“ポスト金正恩”として、妹の金与正(キム・ヨジョン)氏が注目を浴びることとなった。英フィナンシャルタイムズ(FT、4月27日付)の表現通り、国際社会の「ライジングスター」となったのだ。
日本、それに欧米でも独裁者の妹として高慢な表情の「謎めいた女性」と報じられることが多い金与正氏だが、韓国人からは意外と好意的な反応が多い。
「女性も北朝鮮の指導者になれるんじゃないでしょうか。今やヨーロッパなどには優秀な女性指導者が多い時代です。金与正も能力から見れば、兄(金正恩)より上かもしれません。金正恩の開放的なイメージを演出した人物は、金与正だというじゃないですか」
ソウル市内で仕事と家庭を一生懸命にこなしている編集者の女性(38歳)は、与正氏をこのように評価した。
この後輩は、まさに「キム・ジヨン世代」。韓国の女性が体験する困難や差別を描き、日本でもベストセラーとなった韓国小説『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著)の主人公と同世代なのだ。
彼女はキム・ジヨンと同じく、男性優位の韓国社会に批判的だ。また権威を何より嫌い、部下に対してもいつも敬語を使っているほどだ。
そんな彼女から、北朝鮮の独裁体制と4代世襲を容認するような発言を聞かされると驚いてしまうが、好印象を持っているのは、後に紹介する通り彼女だけではなかった。韓国社会で最も「進歩的」とも言われている「キム・ジヨン世代」とされる30代女性は、なぜ金与正氏を評価するのだろうか。
30代で政治局幹部に抜擢された「白頭血統の王女」
そもそも金与正氏とはどんな人物なのか。
1988年生まれと“推定”される与正氏は、金正日(キム・ジョンイル)総書記と高容姫(コ・ヨンヒ)氏との間に生まれた2男1女の末っ子だ。現在の肩書きは、党の組織指導部「第1副部長」とされる。組織指導部とは、党・政・軍に対する人事権と統制権を持つ権力の中枢にある部署だ。