与正氏はまた「政治局員候補」を兼任している。政治局員候補は、30人前後と少数で、60代以上が大半を占めている。金委員長の叔母、金敬姫(キム・ギョンヒ)氏(故張成沢氏の夫人)が政治局員候補に名を連ねたのも60代になってから。30代の与正氏が選ばれたことは極めて異例で、彼女の政治的な地位を明確に示している。
北朝鮮の後継者問題の第一人者で、韓国のシンクタンク「世宗研究院」北朝鮮研究センター長の鄭成長(チョン・ソンジャン)博士は、封建制が維持されている北朝鮮では、金日成直系の子孫にあたる“白頭(ペクトゥ)血統”の与正氏が後継者になるだろうと展望する。
「金正恩委員長の子供が幼いうちに北朝鮮で有事が起これば、金与正氏こそが後継順位は最高位でしょう。金正恩氏と金与正氏は、北朝鮮の王族です。北朝鮮の後継者問題は、個人の能力よりも白頭血統という“後光”が重要。白頭血統を持っている者のうち、いま権力の中心にいる人物は正恩氏と与正氏だけです」
「洗練されてスマート」「次世代の女性指導者」
そんな「キム・ジヨン世代」が持っている理想とは程遠い封建制の中の人物に思える金与正氏だが、その評判は冒頭で紹介した後輩の言葉のように決して悪くない。
「指導者としての姿を見せつけようとするが、まだまだ未熟に見える」(33歳、看護師)というような意見がある一方で、同世代の女性として期待する声が数多く聞こえてくる。
「外見からすると、洗練されてスマートなイメージがある。女性としての目線で北朝鮮をリードしていく指導者という感じがする」(39歳、小学校教師)
「独裁政権の北朝鮮で女性が本当に政策決定者になれるかは疑問だ。随行する秘書のイメージまでが限界だろう。ただ、金正恩政権の崩壊で北朝鮮に変化の風が吹けば、次世代の女性指導者として可能性はあると思う」(36歳、雑誌記者)
「高慢な王女のような印象があるが、カメラに映る様々な姿を見ると、金正恩より開放的に見える。金与正が指導者になれば、北朝鮮を改革開放に導くことができるかもしれない」(39歳、大学講師)
「(北朝鮮との)統一は望まないが、中国や日本のように交流をしながら過ごしたい。北朝鮮社会の安定のためにも、金与正が後継者になることは悪くない」(32歳、会社員)
このように、北朝鮮の「キム・ジヨン世代」ともいえる与正氏に対して、女性の社会進出という視点で新しい風を吹かせてくれるのではないか、という期待が持たれているようなのだ。