現代都市から失われゆく風景がある。社会や技術の変化により、いつのまにか消えてゆく街中のモチーフ。例えば「電話ボックス」「給水塔」あるいは昔ながらの「低層団地」などだ。

 都市の怪談は、その舞台となった場所のイメージが重要だ。「夜中に灯る電話ボックス」や「古い団地の廊下」が消えるのは、それにまつわる怪談が消えていくことでもある。

怪談によく出る「電話ボックス」も、今は見かけることが少なくなった ©iStock

「踏切」もまた、失われつつある都市風景の一つだ。安全のため、往来をスムーズにするため、踏切を廃止しての立体交差化があちこちで進んでいる。

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 確かに、列車が目の前をゆくのを待ち続け、しばしば事故や自殺の現場となる踏切は、都市の効率にとっては無駄な要素だ。排除しようとする気持ちもわからなくはない。

 ただ、そうした危険や無駄こそが、踏切をすこぶる怪談的な風景にしていたのだが。

事故多発スポットとして名高い、二つの踏切

 JR中央線は、昔から人身事故が多いことで知られている。その中でも事故多発スポットとして有名だったのが、西八王子と武蔵小金井にある某踏切だ。現在はどちらも姿を消しているが、実家が八王子、高校が武蔵小金井にあった私は、そこにまつわる怪談の噂もふくめて、この二つの踏切をよく覚えている。

 例えば西八王子の踏切については、こんな話が伝わっている。

 自殺の名所だったこの踏切で、一人の男が電車に飛び込んだ。衝撃で体がバラバラになるという悲惨な死に方だったが、なぜか頭部だけがどこにも見当たらない。

 後日、それは線路脇の高校のプールにて発見された。切断された勢いで飛んできた生首が、ぷかぷかと水上に浮かんでいたのである。それからというもの、水泳中の生徒が溺れるなどの怪現象が続出したため、プールは撤去されてしまった。だから同校には、いまだにプールが設置されないままなのだという。

※写真はイメージです ©iStock

 1980年生まれの私が物心つく頃にはささやかれていた、八王子市民なら誰もが知るメジャーな怪談……というより都市伝説である。もっとも、これほどの事故なら(規制のゆるい昔なら)報道されているはずだが、いくら探してもそれらしき記録は出てこない。踏切で事故が多発していたこと、その学校にプールがないことは事実にせよ、当該エピソードは事実無根のデマに過ぎないのだろう。