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JR中央線“人身事故多発”二つの踏切の謎 轢かれたはずの人はなぜ消えたのか

“オカルト探偵“吉田悠軌が紐解く“都市風景と怪談” 踏切

2020/05/16
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「深夜になると、あそこに首のない人影がぼうっと立つ、なんて噂がありますね」

 現在そこは踏切を撤去し、跨線橋がかけられたため、往時のような事故・自殺は解消されている。私も現場を訪れてみたが、やけに長く緩やかなスロープが印象的な橋だった。手すり上部も金網ではなく、とっかかりのないボードが嵌めこまれている。「絶対に飛び込ませない」という意志を感じさせる造りだ。

現在は厳重なフェンスやボードで囲われており、線路内に立ち入ることは不可能だろう ©吉田悠軌

 そこでふと、乗ってきたタクシーの運転手さんから「線路の奥をよく見てください」と声をかけられた。薄闇に目をこらすと、線路の向こうに、かつての踏切の残骸がひっそりと佇んでいるではないか。

「深夜になると、あそこに首のない人影がぼうっと立つ、なんて噂がありますね」

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 なるほど、現在のロケーションに合わせて、怪談も更新されているようだ。ただしひどくおぼろげな、記憶の残像を見ているような怪談ではある。

西八王子踏切跡地 ©吉田悠軌
西八王子踏切跡地 ©吉田悠軌

轢かれたはずの人間が消失する「開かずの踏切」

 武蔵小金井駅そばの踏切もまた、人身事故が多発する場所だった。先述通り私の高校の最寄り駅であり、通学の途中、「(事故の直後だから)今はあそこの踏切に行かない方がいい」と同級生や通行人から注意されたことが、何度もある。

 もっともそこは日本有数の「開かずの踏切」だったので、自殺よりも線路内に取り残されての事故の方が多かったかもしれない。怪談の噂についても、「人魂や怪しい光が浮いている」という些細なものばかりではあった。

 むしろ有名な「幽霊騒ぎ」は、この開かずの踏切が消え、高架化された後に起こった。2019年3月、運転士が「ホームから線路に飛び込んだ人を見た」として、特急あずさ33号を緊急停止させた事件だ。ネットニュースなどで大きく扱われたため、地元民以外にも広く知られることとなった。

 人身事故が起きたと思いきや、轢かれたはずの人が消えている……。こうした鉄道の「幽霊騒ぎ」は、実はあまり珍しいケースではない。日本全国であれば、報道されているだけでも数年に一度の割合で類似事件が発生している。ただ興味深いことに、武蔵小金井駅では高架化前の2000年代半ばにも、同じ騒ぎが起きているらしいのだ。

※写真はイメージです ©iStock

 私が2019年の「幽霊騒ぎ」について情報を集めていたところ、Kさんという人から興味深い情報をうかがった。

 2004年か2005年のことだという 。午後11時40分頃、 Kさんの乗った電車が「お客様が飛び降りたため」のアナウンスとともに、武蔵小金井駅で緊急停止。しかしいくら捜索しても、周辺には人影一つ見当たらない 。それだけでも奇妙だが、なんと翌日また同時刻・同駅で「線路上の人を見て電車が緊急停止したが、捜索しても無人」という事態に出くわしたというのだ。2019年のニュースを見たKさんは、「あの時の幽霊が、また現れたのかも」と思ったらしい。