先行きの見えないコロナ禍のなかで、出産・子育てを行う親たち。WHOが新型コロナウイルス感染症をパンデミックと表明した3月11日からの40週間には、世界で推計1億1600万人の赤ちゃんが生まれると発表された(国連児童基金より)。平時でも心身ともに周囲のサポートが必要なはずだが、必要なケアが行き届いていない現状がある。孤立し、不安の中で子育てに携わる母親の悩みを聞いた。(取材・文=常田裕/清談社)
出産場所を確保できなくなる不安
「たまたまこの時期に生まれるからって、子供が『コロナベイビー』なんて言われることになってしまうのが悲しい。悪気がないのは分かりますが、できれば聞きたくない言葉ですね」
こう話すのは妊娠9カ月目に入った都内在住の山岡知恵さん(仮名)。現在は同じ30代の夫と二人暮らしで、来るべき出産の日に備えている。
「幸い会社はテレワークが可能なので、今のところ自宅で仕事をしながら、なるべく外出を避けて生活しています。今感染するわけにはいきませんからね。もともと実家近くの産院で里帰り出産を予定していたんですけど、病院からは毎日の検温と、『絶対に出産予定日の2週間前には実家に戻っておいてください。そうでなければ受け入れることはできない』と言われています」(山岡さん)
新型コロナの治療薬として期待される抗インフルエンザ薬「アビガン」は、副作用が報告されているため妊娠中の女性への投与は避ける必要がある。また、万が一感染してしまうと、出産場所を確保できなくなる不安も常にあるという。
「妊婦検診はもちろん一人だし、出産の立ち合いも出産前後の面会もできないみたいですけど、これはもう仕方ないですね。知り合いで出産したばっかりの子なんか、旦那さんがテレワークのできない仕事のため、生まれたばかりの子供にもう1カ月近くも会わせられていないそうです。里帰り出産をすることで、両親の感染リスクも心配です」(山岡さん)
本来なら、幸せをかみしめながら夫婦で積み重ねるはずだった出産までの時間も、コロナによって重苦しいものになってしまった。
「初産なので、いろいろ教えてもらいたいこともあるんですけど、病院や保健所主催の母親学級がストップしているので、そういう場がない。同じ状況で相談できる人がいれば、少しは不安も減ると思うんですけど」(山岡さん)
出産前にやっておきたかったことがほとんどできなかったのも心残りだという。
「夫婦二人での旅行の予定もキャンセルしたし、ベビー用品など出産後の準備もできていません。細かいところでは出産前に美容院も行っておきたかったんですけど」(山岡さん)
山岡さんは2月に予定していた披露宴も直前で取りやめている。式場側とは出産後3カ月程度をメドに延期するということで話をしておりキャンセル料はかからなかったというが、先行きは不透明だ。
「生まれた後のことを考えると不安がないわけじゃありませんが、とにかく今は無事に産むことを考えるしかないと思ってます」(山岡さん)