慰安婦問題の“二重構造”
こうした数字が物語っているものは何か。
元慰安婦よりも“運動家”の声のほうが大きくなっている、という現実だ。挺対協の活動の先頭に立って発言する元慰安婦は実際には数人程度。むしろ多くの元慰安婦はサイレントマジョリティと言える。韓国政府の見解とは反対の意味で、被害者の声が十分に反映されていないのだ。
私がこうした慰安婦問題の“二重構造”に気が付いたのは今から5年前、取材でナヌムの家を訪れた時だった。ある元慰安婦が日本語でこう伝えてきた。
「日本人には悪いこともされたけど、助けてくれたのも日本人だった。慰安婦問題が韓日問題のトゲになってはいけない」
中には「日本は謝れ」と叫び続ける元慰安婦もいただけに、その言葉は忘れ得ぬ記憶となった。もっと元慰安婦の“生の声”を報じるべきではないか。そう模索していた時、知ったのが沈美子の存在だった。
政府中枢に挺対協元ナンバー2
生前、数多くのメモや手紙を遺してきた沈美子。その一つが、冒頭で紹介した「募金のお金を横取りしている。ハルモニを食い物にしている」と、挺対協を痛烈に批判する手紙である。
「多くのハルモニは貧しい境遇にあったのに、挺対協がほとんどのお金を持って行ってしまうことを、彼女はおかしいと感じていたのです」(沈美子の支援者)
さらに、〈これは遺言です〉と前置きされた別の書簡によれば、
〈挺対協のナンバー2の池恩姫(チウンヒ)は13年間詐欺行為を働いている。『野蛮な日本に奪われた人権を回復する』と口にしながら国民を騙した。挺対協とナヌムの家そしてメディアは癒着しており、彼らに元慰安婦は殺されている〉
実は挺対協の元幹部、池恩姫は後に盧武鉉政権で女性部(現・女性家族部)長官となる人物だ。癒やし財団を所管する女性家族部には挺対協出身者が多く、挺対協が政府や世論に大きな影響力を持つ要因となっている。
だが、そこに慰安婦の想いは反映されていない。優先されているのは、挺対協のパフォーマンスだ。
「沈美子は、33人の元慰安婦を集めて『世界平和無窮花会』を組織して独自の活動を目指しました。そして、挺対協やナヌムの家などの元慰安婦を“食い物にしている”運動体の解散を目指し、裁判に踏み切ったのです」(同前)
2004年3月13日、沈美子ら13人の元慰安婦たちは、挺対協とナヌムの家に対し、「募金行為及びデモ禁止の仮処分申請」を申し立てる。その目的は、運動の資金源である募金を止めさせること、水曜デモを止めさせることにあった。