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 記念碑には、元慰安婦247人の実名が刻まれているが、挺対協に反発した沈美子の名前は恣意的なのか、外されている。更によく見ると一部が削られていた。名前を消した跡だ。

「元慰安婦の中には差別や中傷を怖れ、家族や知人に過去を明かしていないケースも多い。にもかかわらず、記念碑には、本人の許可を取らずに実名が刻まれていた。それを知った慰安婦の一人が、深夜に金槌とノミで削ったと聞きました。市長や運動家が自身の活動を誇示するために作った記念碑でしかなく、慰安婦を二度殺すような行為です。でもそうした批判は、韓国では黙殺されています」(元慰安婦の支援者)

元慰安婦・李容洙(イ・ヨンス)氏 ©️getty

「市民団体が強すぎることは頭が痛い」という本音

 政治にも強い影響力を持つ挺対協。与党「共に民主党」所属で、韓日議連会長の姜昌一議員はこう語る。

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「歴史問題は保守、革新で解釈が違う。だから解決はあり得ないんです。慰安婦問題も韓日政府がお互いに何も言わないのがいい。若い世代は慰安婦問題に関心がないし、韓日には他にも重要な問題がある」

 ところが私が「挺対協など運動体の意見が強すぎるのではないか」と問うと、

「市民団体が強すぎることは頭が痛いことです……」

 と言葉少なに本音を垣間見せるのだった。

 市民団体の圧力や南北会談を機に韓国では民族主義が台頭しつつあるという。

 韓国メディアの記者がため息交じりに語る。

「11月中旬にソウル市内で挺対協が北朝鮮の慰安婦問題専門家を招いてシンポジウムを開きました。そこで『南北が協力して慰安婦問題で共闘しよう』という言葉が出たのです。挺対協の尹代表は、近親者が北の内通者という疑いもある。心ある記者は『北と近付くのは間違っている』と感じていますが、批判し難い雰囲気があるのです」

 この状況が続けば、北朝鮮からも慰安婦問題を巡って損害賠償の声が上がることは必至。挺対協の目的もそこにあると見られる。そして文政権がその流れを後押しするのではないか。

深まる日韓の溝と、置き去りにされる元慰安婦

 かたや日本はどうか。首相周辺は「国際社会は合意を破棄した韓国の方がおかしいと見るだろう。日本からは何も動かない」と明かす。深まるばかりの日韓の溝。そこで置き去りにされるのは元慰安婦たちだ。

©️iStock.com

 ソウル市内から2時間あまり。忠清南道に位置する天安市。なだらかな丘陵地帯の一角に「望郷の丘」という国立墓地がある。弔われているのは、太平洋戦争の犠牲となった多くの韓国人、そして大韓航空機撃墜事件の被害者。その一角に元慰安婦たちの墓もあった。

 ここを私が訪れたのは金学順(キムハクスン)の墓を訪ねるためだ。静かに手を合わせると、冬の冷たい風が肌を撫でた。

 金学順は1991年に慰安婦と名乗り出て、慰安婦問題を韓国国内に周知させた一人。彼女の墓碑は挺対協などの支援組織が建立したものだという。