現在の将棋界では第3回AbemaTVトーナメントが大きな注目を集めている。いわゆる「フィッシャールール」による超早指し戦(持ち時間5分切れ負け、ただし1手指すごとに5秒加算)であることは第1、2回と同様なのだが、特筆すべきはドラフト会議を経て指名されたメンバーによる団体戦であることだ。(全2回の1回目/#2に続く)

仲間の戦いになると感情をもろ出しにして応援

 いうまでもなく将棋は1対1の個人競技である。本来は競争相手である棋士同士がチームを組んで戦うことなどは、これまで想像もできなかったことだ。

 今回のAbemaTVトーナメントは、その想像を覆したともいえる。対局中の棋士を控室で一喜一憂しながら見守るチームメイトたちの姿は、普段の対局ではお目にかかれないものだった。自らの対局中は常に冷静で感情を表さない棋士が、仲間の戦いになると感情をもろ出しにして応援する姿も、多くのファンから支持を受けたことだろう。

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AbemaTV将棋トーナメントでのアベマトーナメントの高野五段―今泉四段戦 ©︎相崎修司

 ただ、これまでの将棋界にまったく団体戦がなかったかというと、そうではない。アマチュアの大会ではいくつかある。主要なものだけでも小中学校団体戦、学生王座戦、職団戦、社団戦など小学生から社会人まで全ての世代を網羅しているし、またプロ棋士が戦った団体戦といえば、数年前までの電王戦を思い出される方もいるだろう。そして普段の公式戦でも朝日杯将棋オープン戦のようにプロアマ戦が一斉に行われるものは、一種の団体戦のようにとらえることもできる。

 プロ棋士は「団体戦」についてどのように考えているのだろうか。

「実際に選ばれるとすごいプレッシャーですよ」

 まずは今回のAbemaTVトーナメントにも「チーム振り飛車」の一員として参戦している今泉健司四段の話から。開幕の予選A組では先鋒としてチームの決勝トーナメント進出に大きく貢献したが、ドラフト会議ではチームリーダーの久保利明九段から「強い自薦があったので」というウラ話を明かされている。

「正直、選ばれるとは思っていなかったです。ただし言うだけなら損はないので、言っておこうかなと」

「プロ編入試験」に合格して棋士になった経歴を持つ今泉健司四段 ©︎文藝春秋

 本人にしても瓢箪から駒の指名だったようである。

「実際に選ばれるとすごいプレッシャーですよ。こうなったら予選では絶対に負けるわけにはいかない。久保さんにしても菅井君(竜也八段)にしても、僕よりハッキリ格上で、チームメイトとしてこれほど頼りになるメンバーはいません。だからこそ自分だけが足を引っ張るわけにはいかないと思いました」

 チームメイトへの信頼と、チーム戦であるが故の重圧について語った。

「久保さんは長い付き合いですから、僕に対する絶妙なプレッシャーの掛け方を知っている。操縦が巧いんですね。そのこともいい方向に出たと思います」とも。チームリーダーがメンバーをうまく操った一例と言えるか。