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音楽家・坂本龍一「映画音楽を作る時は映像独自のテンポを邪魔しないことが大切」

坂本龍一(音楽家)――クローズアップ

2020/06/03
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 台湾の巨匠ツァイ・ミンリャン監督5年ぶりの新作『あなたの顔』は、市井の人々の顔を定点カメラで映し出したドキュメンタリー。ある者は過去を饒舌に語り、ある者は黙って佇み、ある者はうたた寝をする……。実験的とも言える本作の音楽を担当したのは坂本龍一さん。この作品を観た時、アンディ・ウォーホルが眠る男を延々と撮り続けた映画『眠り(Sleep)』を思い出したのだそう。

坂本龍一さん

「映画という形を取ったアート作品のようだと思ったんです。ストーリーやドラマがあるわけではないのに、観る側が勝手に彼らの顔のシワから意味を読み取りたくなってしまいます。ただ『眠り』にはシネマを否定する意味があったけれど、ツァイさん自身はシネマティックな顔の人を選んだと言っていたから、映画であることを否定していないのが面白いですよね」

 とは言え、音楽をつけるにあたっては、あえて意味を見出すことはしなかった。

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「100%お任せということで依頼されたんですけど、いわゆる普通の音楽をつけたらうるさくて顔のシワが見えなくなってしまう、あるいは過剰な意味がついてしまう。だから対象物として顔がそこにあるように、オブジェのように音があるという感じで作りました。この作品に限らず、映画音楽を作る時は映像独自のテンポを邪魔しないことが大切。実を言うと、映画には音楽はなくてもいいと考えているくらいなので、音楽をつけるのなら1+1が2になる以上の何かが生まれるものを作りたいと願っています」

 ツァイ監督とは数年前のヴェネツィア映画祭で出会って以来の旧知の仲。

「ツァイさんはいつもニコニコしていて楽しい人。飴やお菓子を『ちゃんと食べてよ』ってみんなに配ってくれる、そういう温かさがあります」

さかもとりゅういち/1952年、東京都生まれ。1978年ソロデビュー。映画『ラストエンペラー』の音楽ではアカデミー作曲賞を受賞。2017年に8年ぶりのソロアルバム『async』を発表。

INFORMATION

映画『あなたの顔』
6月27日より渋谷シアター・イメージフォーラム他、全国順次公開
http://www.zaziefilms.com/yourface/

音楽家・坂本龍一「映画音楽を作る時は映像独自のテンポを邪魔しないことが大切」

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