『息子のまなざし』『サンドラの週末』等の作品で知られるベルギーの巨匠、ダルデンヌ兄弟の最新作『その手に触れるまで』が近日公開される。常に社会の歪みの中で生きる人々に視線を向け、映画の中に映し出してきた二人。最新作でもその妥協なき姿勢は変わらない。主人公は、イスラム過激思想にのめり込む13歳の少年アメッド。イスラム教指導者に感化されたアメッドは、かつては慕っていた学校の教師に敵意を向け、やがて暴力という手段へとひた走る。映画は、狂信者となった一人の少年の葛藤と痛みをスリリングに描く。

(*この記事には、映画『その手に触れるまで』の結末に触れる内容が含まれています)

Jean-Pierre & Luc Dardenne © Christine Plenus

少年はいかにして狂信から抜け出ることができるのか

――イスラム過激派に傾倒した少年の犯罪というとても難しいテーマに挑まれたことに驚きました。この物語が生まれた背景には、やはり2016年にベルギーで起きた連続テロ事件があるのでしょうか?

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ジャン=ピエール 一連の事件が後押しになったのはたしかです。映画を作るうえで常に考えているのは、我々が今生きている世界がどうなっているかということ。この映画に登場したような少年少女たちがヨーロッパで生まれ育ち、ときに宗教を理由に人を殺したりする。彼らは、自分たちが信じる教えとは違う不浄さ、汚れがあるというだけで人を排除できると考えている。そういう狂信化した人たちが今たしかに存在しているのです。私たちは、彼らがいかにそこから抜け出ることができるか、そもそも抜け出させることは可能なのか、それを物語の中で描きたいと考えました。

――観客は、映画の始まり当初からアメッドがすでに過激思想にはまりこんでいることを知るわけですが、彼が思想に傾倒していく過程を描くつもりは当初からなかったのでしょうか。

リュック ええ、アメッドが過激化する過程を描こうとはまったく思いませんでした。そうした映画はすでに何本も作られていましたから。興味があったのは、少年はいかにして狂信から抜け出ることができるのか。映画では、母親をはじめ様々な登場人物が彼を助け出そうと試みますが、結局何の効果ももたらしません。それだけ狂信とは根深いものなのです。彼が初めて変われたのは、自分自身が死に直面したときです。

© Les Films Du Fleuve - Archipel 35 - France 2 Cinéma - Proximus - RTBF

――彼の変わっていく姿を描くことが何より重要だったということですか。

リュック そのとおり。変わることはとても難しかったけれど、最後のシーンでようやくその瞬間が訪れます。それまで触れたくもないと思っていた人の手に触れる。彼はそこで赦しをも求めているわけです。死にまっしぐらだった考えが変わり、元の人生を取り戻そうとしている。アメッドはようやく元の子供に戻ったわけです。