初めて演技をする俳優を撮ることはひとつの喜び
――本作では新人のイディル・ベン・アディを起用していますが、前作『午後8時の訪問者』、前々作『サンドラの週末』では、アデル・エネルやマリオン・コティヤールといったフランスの著名な女優たちと作品を作っていますね。経験豊かな俳優と演技経験のない新人とで、仕事をするときに、何か違いは意識されていますか?
リュック アメッド役のイディル・ベン・アディはこれが初めての演技経験となりました。映画の作り手としては、初めて演技をする俳優を撮ることはひとつの喜びでもあります。私たちのカメラを通して彼らを見出すことができるわけですから。
演技経験のある俳優とアマチュアの俳優たちの違いというのは本質的にはほぼないと言えます。私たちの場合、普通の撮影に入る前にだいたい1か月から1か月半くらいのリハーサルを行います。それだけ長い時間をかけるのは珍しいことかもしれません。経験豊富な俳優も初めて演技をする俳優もみな同じように、すべてのシーンをリハーサルします。そこには何の区別もありません。ただし俳優というのはたいてい、ここはこうしたいとかこうしたらどうか、という提案を自らするものですが、新人や演技未経験者は提案の数が少ない。ですから私たちのほうから、こういうふうにしようと教えることが多くなる。また俳優経験のない人たちはふだんの自分の生活態度がなかなか抜けないものです。人は話をするときに手を動かしたり、自分なりの癖を必ず持っていますが、それを演技の中で延々とやられると困ってしまう。だからそういう癖や普段の生活の中での自分はなるべく取り除いてもらう必要がある。経験豊富な俳優の場合は逆です。みな演技における技術を持っているのですが、映像に乗った際にその技術がこれみよがしにならないよう気をつける必要があります。その段階が済めば、あとはプロもアマも関係なく、まったく同じやり方でリハーサルを続けます。
――本作では、最初から演技経験のない少年を起用しようと考えていたのでしょうか。
リュック 子役を起用するという考えはありませんでした。ベルギーの場合、映画業界がそこまで大きくはないので、子供を集めてキャスティングする場合はほぼ演技経験がないのが普通なのです。