終電を逃した人にタクシー代を払う代わりに自宅へついて行き、その生活を取材する『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京)の4時間半特番。コロナ禍の現在は新たな撮影はできないため、大半はこれまで登場した中から特に記憶に残る人たちのVTRを再放送し、リモートで取材した「その後」を加える形。

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 中でも特に印象深かったのは、武漢出身の女性モデルだ。三島由紀夫を愛読する彼女は、元々、山田涼介が好きで日本語を勉強し始めたと照れくさそうに笑う。モデルの仕事はなかなかうまく行かず「私、生きていけるかな……」と悩んでいた。そんな彼女は現在、武漢にいた。1月18日に正月休みとして実家に帰省したところ、23日に都市封鎖。日本に戻れなくなってしまったのだ。自身がモデルを務めたポスターが渋谷駅に大々的に掲示されるなど、いよいよモデルの仕事が波に乗ってきた矢先のことだった。封鎖になった次の日にパニックになってスーパーの買い占めが起こり、空港や高速道路には障害物があって使えないなど、「焦りと不安が空気の中に漂っている感じだった」と封鎖後の武漢の様子を伝えた。僕らは既に彼女の“家”を覗き、心のうちまで知っているから、報道番組では伝え切れないような彼女の切実さがよりリアルに伝わってくる。封鎖が解除され、徐々に日常を取り戻している姿にほのかな希望を感じた。

 今回の特番では、異色の新作VTRも放送された。「取材中に起きたミステリー」と紹介されたそれは今年3月に取材されたものだ。スタッフが声をかけたのは派手めな格好の女性。家に行く前に「ベリーダンスやってるんですけど、踊り見ませんか?」とスタッフをカラオケ店に誘う。このように直接営業して踊ることを生業にしているという。「ギャラを決めたい」と一方的に言って2万円を要求する彼女に渋々5千円を支払うスタッフ。すると機嫌を損ねたのか、家について行くことは拒否されてしまうのだ。これだけなら、ただの失敗VTRだが、それでは終わらない。実は1年3ヶ月前にも別のスタッフが彼女に声をかけ、家について行っていたのだ。バキバキに割れた姿見、壁に貼られた日本地図が描かれたふるさと納税のチラシ、財布の入った冷蔵庫などを見せ、スタッフにレモンを大量に入れたカレーをご馳走していた。さらにその10ヶ月前。また別のスタッフが家に行き、バキバキに割れた姿見……(以下同じ)と、ほぼ同じ取材を行っていたのだ。にもかかわらずそのことに全く触れない彼女が妙に怖い。時間を遡りながら見せる演出も秀逸だった。

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 深刻な話題から、ぶっ飛んだ素人までを等価で扱うのがこの番組の真骨頂。そこにあるのは人の営みの多様さと生々しさだ。

INFORMATION

『家、ついて行ってイイですか?~特別編!』
テレビ東京系 5/13(水)放送
https://www.tv-tokyo.co.jp/official/home_ii/