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あれから15年。SNS過熱以前の、クールなドラマだ 『野ブタ。をプロデュース(特別編)』――亀和田武「テレビ健康診断」

『野ブタ。をプロデュース(特別編)』(日本テレビ系)

2020/06/06
note

 ドラマ『野ブタ。をプロデュース』が放映されたのは、二〇〇五年の秋だ。

 あれから十五年。こんなかたちで修二(亀梨和也)と彰(山下智久)、そして野ブタ。(堀北真希)とまた出会うとは。

「修二」役の亀梨和也 ©文藝春秋

 新作ドラマの製作中断を受け、各局とも再放送ドラマを次つぎ放映し、予想を上回る視聴率をあげた。なかでも『野ブタ。』は『JIN―仁―』や『下町ロケット』と並ぶ支持を得た。

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 隅田川高校二年B組が舞台の青春ドラマだ。原作は芥川賞候補になった白岩玄の小説。ハンサムで人当たりもいい人気者の修二と、いつもヘラヘラしてる脱力系の彰、そしていまの生徒には必須な要領の良さがないため、イジメの標的にされる小谷信子の三人が織り成す物語だ。

 ドラマの鍵というか新鮮さは、人気者の修二が、イジメという〈悪〉と闘う正義漢ではないことだ。いつも人気者でいたい修二は、信子を「野ブタ。」という人気キャラに改造して、自分のプロデュース能力を誇示しようとしている。

 冷酷で計算高い嫌な奴なんだよ、じつは。修二には校内一の美人、上原まり子(戸田恵梨香)というガールフレンドがいる。でも、本当に愛しちゃいない。美男美女。学校一のベストカップルと認められたいから、付き合っているだけ。

 そんな修二が「俺たち三人は友達だっちゃ」とベタベタ付きまとう彰と、陰湿なイジメにあっても、他人を恨まず、不器用な小動物のようにジリッジリッと前に向かう野ブタ。と一緒にいるうち変化していく。

 クールな修二君が、野ブタ。のことを本気で心配したり、超天然系の彰といることを楽しいと感じる。遣り手プロデューサーが、情に流されちゃマズいよね。彰と野ブタ。との友情を優先させたら、クールな人気者ではいられない。

“野ブタ。”こと「小谷信子」役の堀北真希。2006年、横浜ベイスターズ始球式にて ©文藝春秋

 危うし、修二君。人気者の座を維持するため、新たな野ブタ。プロデュース戦略を練る修二。この当時の亀梨君は、いまよりかなりシャープな顔立ちだから、この役柄がぴったりだ。

 修二に甘え、野ブタ。を本気で案じる彰役の山Pは頬っぺフックラさせて、これまた可愛いったらない。

 十五年前と何が変わったのかな。SNSによるコミュニケーションの肥大と変質だろうか。クラスの人気者なんてレベルに満足せず、ネット社会のキングを目指す大小のモンスターが出現しているもんな。

 男二人に女が一人。普通ならベタベタした恋愛ドラマになるところだ。だけど湿度を極力抑えているため画像はあくまでクール。

 正義を振りかざさず、邪悪な存在の心の在り様まで考える三人の姿が、なんともいえず清々しい。こんなギスギスした時代だから、三人の姿が以前にも増してすっごく格好よく映る。

INFORMATION

『野ブタ。をプロデュース(特別編)』
日本テレビ系 土 22:00~ 
https://www.ntv.co.jp/topics/articles/19zk6wgygyaua3thv4.html

あれから15年。SNS過熱以前の、クールなドラマだ 『野ブタ。をプロデュース(特別編)』――亀和田武「テレビ健康診断」

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