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 同弁論要旨には、通電について緒方の精神鑑定時における供述も併せて記載されており、それがいかに精神的に痛めつけられる行為であるかが伝わってくる。供述は以下の通りだ。

緒方の供述「常にいつ通電になるかという緊張の連続」

写真はイメージ ©︎tStock.com

〈最初に通電された頃、松永は最初は遊びの感覚だった。最初はピリッとしただけで、どうということはなかったが、増すに従って恐怖心が増した。(※緒方が逃走した際に)湯布院から帰った時、松永から徹底的に顔面への通電を繰り返された。衝撃は言葉ではなかなか表現できない。顔面の通電では、1秒であってもすごい衝撃で激痛が走り、意識が遠のいて目の前が真っ白になり、このままどうかなるという恐怖感に襲われた。指先の場合は、指がもげるんじゃないかという恐怖があった。いろいろな方向から質問され、答えても通電、答えなくても通電で、本当のことを言っても嘘を言うなと通電され、言う事がなく黙っていても通電された。「音を立てるな」と言われ、気をつけても音がしてしまって通電され、次には気をつけようとして萎縮してしまった。通電は毎日の日課のようで、ない日の方がまれだった。「皿を少し強く置いた」「お前がうるさいから目が覚めた」「怖い顔で掃除している」「(通電に時間がかかり)俺の団欒の時間が減った」といって通電された。痛みと恐怖感で頭の中が一杯になり、ほかのことを一切考えられなくなった。その後しばらくの記憶が今でもはっきりしない。怒鳴られたり問いただされたりしながら、延々と断続的に掛けられた。いつ終わるかは松永の気分次第だった。陰部の通電は性的な意味で自分という人間を否定されるような屈辱感があった。不思議なことに、苦痛は、慣れるのと逆に、回数を重ねるごとに強くなった。恐怖心が増幅された。松永から「電気は私の友達です」と言って笑えと命じられ、それに従った。通電を避けることが最大の関心で、常にいつ通電になるかという緊張の連続で、石にでもなってしまいたかった。思考力が衰え、考えられなくなり、それが回復する時はなかった。日を追うごとに何となく思考力が衰えてきたかなと思ったり、耳が聞こえにくくなったかなと思った。今の状態(公判時)はほぼ正常と思うが、こうなるまでは何年もかかるのではないかと思う〉

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 この凶悪事件をめぐる連載(一部公開終了した記事を含む)は、発覚の2日後から20年にわたって取材を続けてきたノンフィクションライターの小野一光氏による『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(文藝春秋)に収められています。

完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件

小野 一光

文藝春秋

2023年2月8日 発売