たとえば関東の広域組織に住吉会という指定団体がある。住吉“会”なのだから、本来、会員か構成員と書くべきと思ったが、『実話時代』編集部では「住吉会組員で統一しろ」と指示された。当事者たちは会員という。“会の組員“は、やはり違和感があって、構成員、もしくは『住吉会“系”組員』とした。
新聞報道では組織名が伏せられ、単に暴力団員と書かれる。事件を報道することが暴力団の威嚇力増大に繋がるという見地だろう。実際、編集部に入った頃、相手の事務所に拳銃を撃ち込み、それが新聞に載らなかったため、もう一度襲撃を行うという事件があった。2度目の犯行後、実行犯はその場で新聞社に電話をしたらしい。恫喝目的のカチ込みはマスコミで報道され広く認知されることで、ようやく目的を達成する。相手に対する恫喝、業界に対する意思表示、そして社会に対する恐怖心の喚起だ。
破門と絶縁の違いとは
破門や絶縁といった専門用語は丸暗記した。どちらも不始末を起こしたときの処分で、破門は一時的な追放処分で、絶縁は復帰の見込みがない永久追放とされる。たとえば絶縁状は、タイトルと氏名、年齢、過去の役職、年月日が赤字になっていて、顔写真や特徴ある刺青などが掲載される。文面は「任侠道に反し渡世上不都合の段多々有り」「犬畜生にも劣る行為多々あり、誠に許し難き」と囂々(ごうごう)たる非難からはじまり、今後一切組織とは無関係であると念押しされ、以下のような記述でとどめを刺される。「尚、念の為、御賢台には理由の如何を問わず、縁組・客分・交友・商談・使用等の儀は一切堅く御断り申し上げます」。この人間を組員として拾うな、もしもそうすれば我々の組織に対する敵対行為とみなす、というわけだ。縁組・客分・交友・商談・使用という部分は赤字である。
破門には「黒字破門」と「赤字破門」があるからややこしい。
破門状の重要部分が赤字で書かれた赤字破門は、絶縁同様、未来永劫組織に復帰出来ないとされる。同じ死罪でも切腹と打ち首獄門に大きな違いがあったように、ヤクザとしての死刑宣告は同じでも、少々ニュアンスが違うわけだ。