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入社2週間で編集長にさせられた

 入社から2週間、ヤクザのなんたるかが分かってきた頃、「『実話時代BULL』の編集長になってもらう」と辞令が出た。『実話時代BULL』は『実話時代』の兄弟誌で、内容はほぼ同じである。編集部は実質、隔週で雑誌を作っていたわけだ。

 破格の出世に感じるかもしれないが、社員は5名で、2人が女性だった。女性社員たちは直接ヤクザと接しないし、雑誌は2冊あるから、3分の2の確率で編集長だ。3ヶ月ほど経って、私は本当に『実話時代BULL』の編集長にさせられた。させられたという表現はまさにその通りだった。どうせなら『実話時代』の編集長がよかった。『実話時代』と『実話時代BULL』にははっきりとした格差があったし、なにより仕事もろくにできないまま編集長となるのは抵抗があった。しかし、私はこの肩書きが、暴力団取材で欠かせないパスポートであることをすぐに思い知らされた。

権威主義で動く集団

 暴力団たちは権威の中で生きており、組織内の序列を重んじる。同じ「副会長」という肩書きでも上下関係がはっきりあって、それは名簿にそのまま反映される。つまり組織の名簿をみたとき、上から10番目に名前のあるヤクザは、その組織で10番目に偉い。9番目に名前がある人間を立てねばならず、11番目に名前がある人間より偉く、この順列がすなわち組織内の発言力に比例する。これが通称、座布団の順番と呼ばれる。儀式の際に座る場所が、名簿と同じ順になるからだ。

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「あいつと俺とじゃ、座布団が違う」

 といえば、上下関係がおかしいだろう、という抗議となり、実際、座布団の順番を間違えると、たいへんなもめ事になる。襲名式のとき、とある親分が「俺の座布団はここじゃねぇだろう!」と怒鳴りはじめ、問題がこじれたとき、当事者団体のナンバー2が指を詰めた。

 権威主義の暴力団たちは、編集長という雑誌のトップをひどく優遇した。取材でもクレーム処理でも編集長の肩書きは必須だった。これがなければ「責任者を呼んでこい!」と一喝され、話がなかなか進まない。

潜入ルポ ヤクザの修羅場 (文春新書)

鈴木 智彦

文藝春秋

2011年2月17日 発売