新宿歌舞伎町の通称“ヤクザマンション”に事務所を構え、長年ヤクザと向き合ってきたからこそ書ける「暴力団の実像」とは―― 著作「潜入ルポ ヤクザの修羅場」(文春新書)から一部を抜粋する。
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『実話時代の衝撃』
帰国して会社を辞めたあと、そえじまみちおの写真集『極道たちの肖像│ヤクザを写真する』を購入した。写真には過剰なほどの日本らしさが溢れていた。盃さかずきごと事と呼ばれるセレモニー、事務所の装飾、組員の姿――。中でも惹かれたのは、雪の中、着物で番傘を差して歩いている親分の写真だ。
ヤクザを撮影できる方法を必死で探した。てっとりばやいのはヤクザ記事を掲載している雑誌編集部に潜り込むことだ。かたっぱしから週刊誌を読み、実話誌を買い漁り、ヤクザを専門に扱う『実話時代』という特殊な雑誌を発見した。『実話時代』および『実話時代BULL』という雑誌を初めて目にしたときは、かなりの衝撃を受けた。憲法で言論の自由が保障されていることは理解していても、雑誌の存在は許容出来かねた。暴対法が施行されたばかりだったこともあって、違法じゃないか? とさえ疑った。なにしろ一部のコラムと情報ページをのぞきほぼ暴力団関連記事で、それも賛美なのだ。
ページをめくると現役暴力団幹部たちの写真で構成されたモノクロ4ページのグラビアのあと、記事は『ヤクザのいた街角』という投稿ページから始まっていた。読者が日常の中でヤクザと触れ合いホッとしたり、その侠気に触れて感銘をうけたり、心温まるエピソードにイラストを添えたコーナーだ。
「昨晩、公園の入口に黒塗りの高級車が停まっていて、スーツ姿の男性が数人煙草を吸って談笑していました。怖いなぁと思って足早に通り過ぎようとしたら、突然声を掛けられ、どうしていいか分からなくなり足がすくみました。若い衆の人は『おねえさん、ハンカチ落としたよ』と笑っていました。28歳会社員・H」
このコーナーは新入社員の担当で、私もいくつか創作した。万事こんなふうで、実際の投稿はほとんどなかった。
ヤクザ専門誌の社員募集に応募する
これまで見過ごしていたその雑誌が、一部のコンビニエンスストアで売られていたことも仰天だった。コンビニの棚に陳列されるのは、過酷な生存競争をくぐり抜け、確実に売り上げが見込める雑誌だけである。いったい誰がこんな雑誌を買うというのだろうと不思議だった。そのときは全国に10万人近くの暴力団がいることなど、まったく知らなかった。
進路が決まったとはいえ、都合よく編集部に潜り込めるはずもない。生活のためとりあえず写真スタジオに入社した。1年ほどして、スタジオ近くのセブンイレブンで求人誌を立ち読みしていたら、偶然『実話時代』の社員募集を見つけた。運命と思った。