6月1日、営業自粛を続けていた東京の寄席、新宿末廣亭と浅草演芸ホールが営業を再開した。東京都の定める緩和行程において、今は第2段階のため、観客数の上限は100人。観客のマスク着用と検温を義務化し、仲入りを増やして換気も頻繁に行う、といった形で、新しい生活様式の中での新たなるチャレンジが始まっている。
多くの人々が集まるスポーツや文化イベントの中止や延期を政府が要請した2月26日以降、主要な寄席はクローズとなり、ホール落語もこの3か月はほぼすべての公演が中止。
古典はもちろん、ウルトラマン落語をはじめとした新作にも意欲的で、「週刊文春」でも連載コラム「川柳のらりくらり」をこれまで800回以上執筆しつづけている当代きっての人気落語家・柳家喬太郎も、すべての高座が延期、中止となってしまった。
「高座がなくなって自粛生活が続く中で、演芸の世界にいる自分には一体何ができるのかな、あれ、俺なんにもできねえや、ということで、1か月以上鬱々としていたんですよ。お客さんに楽しんでもらうのが仕事なのに、その場がないわけで」
そこで巡りあったのが、オンライン落語、という新しい興行形態。5月の連休中にはじめての公演「文春落語オンライン 柳家喬太郎独演会」を行ったところ、チケットは完売。日本全国はもとより、海外からも、笑いを求めて多くの方々が配信落語に聞き入った。1カメラで成立する伝統芸能とオンライン配信の相性はよく、5月はほぼ毎日、ライブ配信で落語家の噺が聴ける、という状況が生まれた。
「オンライン落語という機会を頂戴して、本当にありがたかった。ああやっと俺も、この閉塞した状況の中で少しはお客さんに楽しんでいただける、そういうところに参加できるんだ、というのがなんだか嬉しくてね」
以降、5月はオンライン落語の高座に何度か上がることとなった。
「オンラインでの難しさ、配信の技術というのはもちろんありますが、何しろオンラインは目の前にお客さんがいない。もちろん向こう側にいらっしゃるのはわかってますが、なんといってもネタ選びが難しい。ライブであれば、差し障りのあるような噺をやっても、空気を見ながらトーンを和らげたりとか、すこしエクスキューズしながら持っていくことができる。放送はできないけどよかったね、ということがライブではできる。でもオンラインだと、向こう側の人はどう思うかというのがみえにくい。だからネタ選びを慎重にやらないといけない。ネタ選び、もしかしたら狭まってくるのかな、という実感があります。でもこれも慣れてくると、ここまではいい、こういう言いかただったらいい、というのも見えてくるのかもしれません」
寄席は一部再開となり、ホール落語の興行も、徐々に戻ってくるはずだ。
とはいえ、ウィズ・コロナ=コロナとともに生きる日々の中で、以前のように寄席が満員になる日が来るのかは、誰にもわからない。
仮に全国で1000人規模のイベントが開けるようになったとしても、人々がそういう場所に抵抗なく足を運ぶようになるまでには、まだまだ時間がかかるだろう。