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2020/06/08

林: まず一般論としては、3点あると思います。1つ目は都心と比べて家賃がかなり安いこと。都内だと自粛中の家賃負担に耐えきれなくて早期撤退する店も出ているようだけれど、西川口ならしばらくは持ちこたえられる。

 2つ目は、西川口で中国人がやっている中華料理店は、少なくとも半分以上は家族・一族経営だから。人を雇っていなければ、いざとなれば人件費を圧縮できます。3つ目はお客さんに中国人が多い。コロナの流行中でも、中国人は中華料理を食べたがるから、一定の利用者がいるわけです。

福記の名物、ハイリービン。もう一度店内で食べられる日はいつ? 写真は2019年5月撮影

──固定費が安い、人件費を圧縮できる、リピーターがいる……と。これが強い。

林: もっとも3番目については、ウチの場合は事情がちょっと違います。正直、お客さんが中国人だけだったら、今回のコロナ流行のダメージで、閉店を検討していたかもしれません。

──どういうことですか?

林: ウチは今年5月20日でちょうど創業してから5年なんですが、西川口は5年前だと中華料理店が5軒しかなかったんですよ。でも、いまは50店くらいあります。中国人客があちこちに分散するようになりましたから、中国人だけが相手の商売は5年前よりもずっとしんどいんですよね。ウチはさいわい、日本人のお客さんにも評価していただいているので、まだ続けますよ。

「東京に進出しなくてよかった」

 他の店舗についても聞いてみたい。日本人の西川口マニアの間で、この街の代名詞的存在となっているのが蘭州ラーメンの「ザムザムの泉」(@zamzamnoizumi)だ。甘粛省出身の回族(イスラム教を信仰する中国の少数民族)にしてカナダ国籍を持つマーさんがみずから打つ麺は、食通の間でも評価が高い。

コロナ前には気軽に楽しむことができたザムザムの泉の蘭州ラーメン。絶品。2018年11月撮影

 だが、この名店も緊急事態宣言に先駆けて4月3日から臨時休業。最近、6月12日からの営業再開がツイッターでアナウンスされたものの、なんと2カ月以上の完全クローズだ。

──コロナの影響について教えて下さい。

マー: 中国本土での流行爆発が伝えられた今年2月までは、新メニューを投入したこともあって、前年よりも売り上げが伸びていたくらいだったんです。でも、3月からはガクッと減った。

 4月3日からの臨時休業の理由は、ウチは店が狭いですし、万が一、お客さんに感染が広がってしまったらと心配だったからです。個人的には、私はイスラム教徒ですからステイホームだとラマダン(断食月)が過ごしやすくて、その点だけはよかったのですが。

──なるほど。ザムザムの泉は一時期、西川口の店を閉めて東京に出店する計画があったようですが、それも中止でしょうか。

マー: はい。東京に進出しなかったのは神様のお導きですよ。西川口の小さなお店だから、しばらく店を閉じていてもなんとか持ちこたえられています。東京に移っていたら、家賃負担に耐えられなかったかもしれませんね。

「在日中国人専用」宅配アプリも登場

──西川口で取材していると、意外と中国人のお店が無事な印象があるんですよ。正直、日本人のほうがオタオタしている印象すら受けます。