「裏切り者」にもかかわらず暴力団受けする雑誌
後発の『実話時報』は着実に売り上げを伸ばし、増刊から月刊誌に昇格した。逆風をものともせず、裏切り者の汚名を着せられながら暴力団たちに認知されたのは、編集長が驚異的に暴力団ウケするからだ。
なぜこれほど暴力団から好かれるのか?
具体的な理由を説明するのは難しい。愛嬌のある丸顔で今風のファッション。取材時にはきちんとスーツを着て、人当たりはいいが、それだけでは説明になってない。彼にはこの仕事を行う上で致命的な欠点がある。携帯電話がなかなか繋がらない。ばかりか折り返しすらないのだ。連絡を取りたい時は、まず携帯メールでトラブルではないことをアピールする。その上で電話をかけ、繋がらなければ、諦めるしかない。
都合が悪くなると暴力団からの電話にも出ない。それはもう徹底して出てくれない。自分たちが携帯電話に縛られているぶん、暴力団たちはこちらに対しても、24時間、いささかの遅延もなく連絡がとれるよう要求してくる。それを無視するのだからかなり図太い神経で、こうでなければこんな仕事は出来ないのかもしれない。私はいつも枕元に携帯電話を置いて寝る。着信音量はつねに最大である。
ある年の大晦日、大掃除を終えてテレビを観ていたら関東近郊の組織から電話がかかってきた。
「今日の夜、初詣を取材するって話なのに、編集長と連絡がとれない。どうなってるんだ!」
ヤクザと迎えた年越し
そんな話は初耳だった。すぐさま彼に電話したがもちろん繋がらない。行きがかり上、仕方がないのでカメラバッグを抱え、バイクに飛び乗った。私はその組織と一緒に年越しをするはめになった。
連絡の取れない編集長……最初は語気荒く彼を非難する暴力団たちも、最後には「仕方ねぇよなぁ」と納得する。なにをやっても暴力団から好かれる。こんな仕事をせず不動産の営業マンにでもなっていれば、巨万の富を築いていたかもしれない。
暴力団雑誌にとって大事なのは、現役暴力団が載っているか否か、である。極論すれば記事の内容など稚拙でもかまわない。その点、暴力団賛美であっても極めて真面目な作りの『実話時代』より、組織取材の多い『実話時報』が優位かもしれない。実際、実売部数はすでに『実話時代』を抜いたろう。