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ファンのような心理状態で取材を続ける記者

「ヤクザはしょせんヤクザや。気をつけなあかんで……」

 最も古参の山口組ウオッチャーから、実感がたっぷりこもったアドバイスをされたこともあった。深く関わりあったら火傷する――その忠告が正しいことを、そののち、私は嫌というほど思い知らされた。

 彼らのネタは、毎月一回開かれる山口組の定例会で、暴力団が抗争をしなくなってから、「何時何分、●●組長が本家に入った」と、分刻みのレポートをするのが定番となった。書くべきことがない中で、なんとか記事を作ろうとする苦肉の実況中継だ。この模様を監視する警察とも昵懇の仲……というより和気藹々で、暴力団取材という先入観を持ってその様子をみたら、あまりにアットホームで仰天するだろう。持参した脚立に腰掛け、携帯用灰皿を取り出し煙草を吸いながら、手慣れた仕草で組長たちの到着を待っている姿は、まさに一芸に秀でたプロフェッショナルといっていい。彼らの存在なくして週刊誌のヤクザ記事は成り立たない。

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警察も例外ではない

 彼らは山口組ばかりを追いかけているため、実質、山口組のファンクラブのような心理状態にある。山口組と対抗している他団体のトップが死ぬと、「邪魔者がいなくなった。よかった」と公言するばかりか、山口組の幹部にそう告げたりする。マル暴の刑事たちにもときおり、自分たちが担当する組織に、似たような感情を持っていると感じる。

©iStock.com

「我々が取り締まっている組織こそ最強だ」

 という気持ちは、自尊心の裏返しに違いない。そう分かってはいても、組織の取材に行って、表で張り込みをしている刑事たちから「ドカンと派手に書いてやってくれよ」と言われると面食らう。福岡県警のように「御用記者が来たぞ!」と警戒されたほうがすっきりする。

 そののち、暴力団組織の名称は載せないが、ヤクザの生態を題材の一部とする『実話ナックルズ』や、2匹目のドジョウを狙った『実話マッドマックス』といった新ジャンルの雑誌が登場し、『実話時代』のスタッフが『実話時報』という後発の暴力団専門誌を立ち上げ、私の仕事の場は拡大した。