松永は、すぐに由美さんに連絡を入れ……
かつて由紀夫さんに紹介されたことで知っていた、伯母名義の通帳が郵便受けに入っていることに気付いた松永は、すぐに由美さんに連絡を入れ、「清美に頼まれて通帳を作ったようだが、自分はなんでも知っている。清美は泥棒に入って警察に保護されたことを由紀夫さんに知られ、由紀夫さんから殴られてボコボコにされたあと逃げ出した。知り合いの福岡管区警察署の幹部から得た確かな情報によると、清美は不良グループに入っていて、覚せい剤の運び屋グループに入っている可能性もある。清美が祖父母の家にいるという確かな情報もあるので、一緒に来てくれないか」と、口からでまかせの嘘を言って、協力を取り付けた。
なお、補足しておくと、すでに記した通り、この時点で由紀夫さんは死亡している。しかし、松永は清美さんに、父親の死が発覚すると、関わった彼女も捕まると思い込ませていた。そのため、清美さんは父親の死を口外していない。同時に、由美さんも弟である由紀夫さんの死については知らなかった。彼女は1994年に由紀夫さんから松永を「東大理工学部卒でIBMに勤める宮崎さん」と紹介されていたことから、松永を信頼しており、この時も松永の嘘を鵜呑みにしていた。
抵抗する清美さんに対し、「早く行こう」と右手首を掴んだ
2月14日の午後11時頃、松永は由美さんに案内されて祖父母宅を訪ねた。そして応対した祖父母に向かっていきなり土下座をして、「由紀夫さんから清美が18歳になるまで面倒を見るように頼まれています。彼女がケガをしているのは、由紀夫さんから殴られたからです。いま清美が震えているのは、由紀夫さんが怖いから。彼女は万引き、シンナー、覚せい剤をやって、由紀夫さんに叱られている。今日は遅いから、とにかく連れて帰ります」と言い、震えながらソファにしがみついて抵抗する清美さんに対し、「早く行こう」と右手首を掴んで外に連れ出した。
そして由美さんが運転する車で小倉南区内のファミリーレストランに行き、そこで緒方と合流。由美さんと別れると、松永が清美さんの左手首を掴んだままタクシーに乗せて、東篠崎マンションへと向かった。9階に上がると、緒方が部屋のドアを開け、松永が清美さんの手首を引っ張り室内へと押し込んだ。
室内での松永の脅迫は、部屋に戻った15日午前5時から正午過ぎまで続く。