1ページ目から読む
4/4ページ目

周囲と隔絶させようとする工作は続く

 その後の暴行について冒頭陳述で取り上げられた内容は、当連載の第1回に記しているため、ここでは詳述を避けるが、通電や足蹴にするといった暴力のほか、カッターナイフで指先を切らせて血判状を作成させたり、眉毛を剃り落としたりということがあった。

 なかでも、清美さんにラジオペンチを渡し、「5分以内に爪を剥げ。ここの親指」と命じて、みずから右足親指の爪を剥がさせた際のくだりは真に迫り、傍聴しながらその場面を想像して息を呑んだ。

 その後も松永による、清美さんを周囲と隔絶させようとする工作は続く。

ADVERTISEMENT

〈平成14年(2002年)2月20日ころには、被告人松永が、同被害者に対し、前記国民健康保険の解約手続を電話で祖父に依頼するよう命じてこれに従わせるなどし、同月22日ころには、被告人松永が、同被害者に対し、前記アルバイト先に電話をかけて履歴書の破棄を依頼するよう命じて従わせるなど〉していたというのである。

 このような卑劣な行状を列記したうえで、検察側は松永と緒方の犯行について、次のように締めくくった。

迎えに来た祖父とともに警察に助けを求めた

〈同年2月15日午前5時ころから同年3月6日午前6時ころまでの間、上記一連の暴行及び脅迫等により、その逃走意欲を喪失させて、同被害者が東篠崎マンションから脱出することを著しく困難にして同被害者を不法に監禁し、その際、上記一連の暴行により、同被害者に対し、同日以降の加療に約1か月を要する右側上腕部打撲傷皮下出血、頚部圧迫創及び右側第一趾爪甲部剥離創の傷害を負わせた〉

©iStock.com

 清美さんが〈このままでは一生被告人両名から支配された過酷で悲惨な状況が続くとの危機感から意を決し〉松永らによる監禁生活から逃走して、迎えに来た祖父とともに警察に助けを求めたことにより、子供4人が発見、保護され、原武裕子さんが被害に遭っていたことが判明した。

 松永らは、清美さんの逃走によってこれまでの犯行が発覚することを恐れ、片野マンションの家財道具を処分するなど、証拠隠滅工作を図る一方で、彼女を連れ戻そうと祖父母宅に押しかけたところで逮捕されている。その際、緒方が処分するつもりで所持していた、前述の「事実関係証明書」などが押収されたのだという。

◆ ◆ ◆

 この凶悪事件をめぐる連載(一部公開終了した記事を含む)は、発覚の2日後から20年にわたって取材を続けてきたノンフィクションライターの小野一光氏による『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(文藝春秋)に収められています。

完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件

小野 一光

文藝春秋

2023年2月8日 発売