将棋の藤井聡太七段がまた新たな金字塔を打ち立てた。
6月4日に行われた第91期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦で永瀬拓矢二冠を破り、渡辺明棋聖への挑戦権を獲得。17歳10ヵ月20日でのタイトル挑戦は、それまでの年少記録だった屋敷伸之九段の17歳10ヵ月24日をわずか数日とはいえ上回る、タイトル戦登場最年少記録である。
藤井七段の勢いは止まらず、6月8日に行われた五番勝負第1局でも渡辺棋聖に勝ち、幸先の良いスタートを切った。「最後、かなりきわどい展開になって……。時間もなかったので、本当に最後の方はわからないまま指していたという感じでした」と藤井七段は振り返るが、一歩間違えたら奈落の底に落ちる綱渡りを渡り切っての勝利は、やはり屋敷九段の持つ、タイトル獲得最年少記録の18歳6ヵ月の更新にも期待を感じさせるものだっただろう。
今回の快挙について、昭和時代にタイトル獲得最年少記録(20歳10ヵ月)を打ち立て、また屋敷九段の最年少挑戦を受けて立った経験を持つ、中原誠十六世名人に話をうかがった。
「久しぶりに将棋を見て興奮しました」
――まず、今回の藤井七段の快挙について、おうかがいします。
「棋聖戦の第1局は最後まで見ていましたけど、大熱戦で良い勝負でしたね。藤井七段はもう十分に強い。私も引退してからだいぶ経つのですべての将棋を見ているわけではないですが、久しぶりに将棋を見て興奮しました」
――勝敗を分けたポイントはどの辺りにあったのでしょうか。
「途中、渡辺さんが金をうまく動かして飛車を取った局面は、後手の勝ちになっていると思いました。私もちょっとうっかりした手順でしたね。ミスに近い手を指すとがっかりするものですが、そこから食いついて行ったのは大したものです」
――中原先生が初めて屋敷九段の挑戦を受けた時のことを教えてください。
「まさか挑戦してくるとは、というのが正直な気持ちでしたね。彼の将棋もほとんど知らず、また25歳差ということで親子対決みたいなものですよ。闘志がわきにくく、やりづらかったです。そして当時の彼は感想戦で『ええ』『まあ』『そうですね』の三言しか言わないんですよ。何をやってくるかわからないまま、というシリーズでした」