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「熱波はいらない」と言われ続けた日々

 熱波師とは、サウナヒーターの上にあるサウナストーンに水を注入し、水蒸気を発生させ(ロウリュ)、その熱をサウナ室全体にムラなくいきわたるようにタオル一枚でお客にまんべんなく送る技術者。巧みな話術や美しいタオルさばきで参加者を魅了する、近年のサウナには欠かすことのできない存在だ。

 しかし、10年前にはロウリュや熱波という言葉は定着していなかった。それゆえ当初は、お客さんには不評で全く受け入れられなかったという。

「最初は月に1回程度で、全く生活の足しにはなりませんでした(笑)。林さんはいずれ他の施設にも派遣して……というようなことを考えていたみたいですけど、僕自身全くピンときてなかったし、そもそもロウリュをちゃんと理解できていなかった。熱された石にアロマ水をかけて、とりあえず『あおぎます』とか言いながらやっていました。

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 お客さんに『いらない』ってはっきり言われたことや、タオル投げられたことも数え切れないほどありましたよ。それでも地道にやり続けたら少しずつ喜んでくれる人が出てきて。なによりやっているうちに、自分がどんどん健康になっていることに気づいたんです」

「おふろの国」では、数々のイベントを精力的に行っている
名物・熱波の祭典、「熱波甲子園」。おふろの国の独自性の裏にはアイデアマン林店長の存在が大きい
今年は動画での開催となる

傷だらけの心と体を救ってくれたサウナの存在

「仕事中はロウリュ、仕事の後もサウナにずっと入ってたんです。サウナで体に熱を入れて水風呂でクールダウンさせて血流が良くなって、だんだん体中の痛みがやわらいでくる。『あれ、これって体にええんちゃうかな』って。散々痛めつけてきた体中の古傷がサウナで緩和されて、睡眠の質も良くなりました。

 そこから自分なりに少しずつ色々わかってきて。お客さんに『熱波って何の意味があるの』って聞かれた時に、きちんとその効果を説明したいと思うようになったんです」

 そこからサウナについての知識を身につけようと調べ始めたという。そして、サウナにより精神的にも肉体的にも安定を得た井上は自分なりのスタイル「熱波」を確立。その道を歩み始める。

「サウナ室でバスタオルを手に『パネッパー!』と叫ぶ印象が強いかもしれませんが、本当は僕のスタイルではバスタオルは必要ないと思っていて。ロウリュの一番のクライマックスは、蒸気が立ち上るところ。本当はそれでいいんだと思うんです。僕の中ではロウリュを立てて、天井で充満させて、ゆっくり入浴者の頭の上から下ろしてきて完成。ただ、沢山の人にエンターテインメントとして楽しんでもらうために、バスタオルを振ったり除夜の108回とか365日熱波とかやりますけど」

サウナ室は2室。オーソドックスなサウナ室と思いきや……
ここにも「サウナ皇帝 井上勝正 熱波道」の文字が!
サウナ・イズネス。フィンランド生まれのサウナストーンをガス遠赤外線ヒーターに融合。スモークサウナの体感を再現するという

 熱波師として独自路線を見出した井上が、この仕事を続ける理由があった。

「なんで僕ここまでやれるのかっていうと、確実に人の体にいいことをやってるという確信があるのと、テレビとかでとりあげられて僕が評価されたら、死んじゃった親父が褒められているみたいで嬉しいんです。