この連載を始める時はサウナオーナーや熱波師など、サウナ関係者の波乱万丈な人生を通して、読者の皆さんや自分がこの世を生き抜くヒントになればいいなと思っていました。でも、今や生きている人はみんな波乱万丈という状況になっています。

 初めにご紹介する「グリーンサウナ」も閉館を4月28日に前倒しするという事態になってしまいました。有終の美をサウナファンみんなとわかち合いたかった。でも、非常事態宣言も発令され、それはかなわぬ夢となりました。悔しくて仕方ありません。でも多分一番無念なのは社長の加川さんだと思います。閉館の前日、加川さんは私にこうおっしゃいました。

「4月28日は、奇しくも私の51歳の誕生日なのですが、運命的な何か強いものを感じます。生涯忘れることはないでしょう」  

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 少なくとも今までにお話を伺ったサウナ関係者の方々の人生は壮絶です。だからこそ、この連載はこの後の世界を生き抜くための指針として、さらに重要なものになる気がしています。いつかまたみんなで笑ってサウナに入れる日のために、サウナ関係者皆さんの“波乱万蒸な人生“を一緒にかみしめましょう。在りし日のグリーンサウナでととのった時のことを思い出しながら。

「湘南ひらつか天然温泉 太古の湯 by グリーンサウナ」年季の入った外観

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 JR平塚駅から徒歩3分の好立地。太古の地層から湧き出た天然温泉をはじめ、アウフグースもできる大きなロウリュサウナと併設する小さくて静かなサウナ、独特で良質な井戸水を使った16℃の水風呂など充実した温浴設備を誇る施設。

 グリーンサウナの名に違わない花と緑にあふれた外気浴スペースには、抜けるような湘南の青空の下、色とりどりのパンジーが咲き誇る。見渡すとヌシのようなゴムの巨木の周りに並べられた鉢植えの数々。寝そべって目を閉じれば、カモメが遠くで鳴いている。湘南のやわらかでポカポカした陽差しの中でする外気浴には、この上ない多幸感をもたらしてくれる唯一無二な体験が待っている……。

 湘南ひらつか天然温泉 太古の湯 by グリーンサウナ。

 この最高のサウナは、惜しまれながらも2020年4月28日をもって閉館を迎えた。

創業は昭和46年という老舗。この感じは昨日今日じゃ出せない

証券会社から米国留学、そしてサウナ経営へ

 いまでは立派な社長である加川だが、初めから家業を継ぐ気はなかったという。

「当時社交ダンスをやっていまして、大学を卒業したらその道のプロになろうと思ったんですが、親に猛反対されまして。卒業して今はなき山一証券に入ったんですが、水があわず、退職してアメリカの大学院にサービスマネジメントの勉強に行ったんです」

 社交ダンスが上手いヨコワケハンサムな湘南ボーイ。大学院も卒業し、なんとか現地ホテルへの就職を決め、日本に残していた彼女を呼び寄せ結婚した。

「結婚して、就職してからはサウナを継ぐとかいうことは全く考えていなくて。アメリカでグリーンカードをとって、向こうで永住するつもりでいたんです。でも、子供が生まれて『俺、後継者なんだな』ということもなんとなく意識し始めて。それで戻ってきたんです」

ランニングを愛するハンサムな湘南ボーイ

 しかし帰国後も加川の胸中にわだかまりは残っていた。

「サウナで育ったので大好きではありましたけど、自分が本当にやりたい仕事かって言われたら、正直、『うん』とは言いきれませんでした」

 しかし、そんな加川にサウナに対するスタンスを180度変える、強烈な出来事がやってくる。