放免祝いで大失敗
今、思い返しても、この当時、取材で嫌な思いをしたことはなかった。大きな失敗をしても、暴力団はそれを笑って許してくれた。最大の失敗は、放免祝いを撮影したフィルムを盗まれてしまった時である。それも総長の放免で、盗難に気がついたときは青ざめた。
放免祝いとは、暴力団が刑務所を出所した際、その労をねぎらうために行われる祝いの席のことだ。組織のための犯罪を名誉と考え、堂々と賞賛する行為であり、他の組員に対し、進んで人柱になるようアピールする狙いもあるから、警察は放免祝いに強力な圧力をかけてくる。ヤクザ映画にあるように、刑務所の出入り口にずらりと組員が立ち並ぶことはほとんどない。天下の公道で、堂々と犯罪行為の賞賛をされたのでは、警察のメンツは丸つぶれだ。
野外で決行する場合、つまり出所したその場で放免祝いをするときは、直前まで場所が明かされず、ゲリラ的に行われる。我々から情報が漏れるのを防ぐため、取材のときも前もっておおざっぱな場所しか教えてもらえない。車で待機し、幹部からの連絡をもらってすぐ会場に向かう。まごまごしていると、撮影に遅れる。
一時期は高速道路のサービスエリアが頻繁に使われた。儀式自体は10分程度で終わるし、大量の車が集結しても駐車場に困らないからだ。いまはサービスエリアのほとんどに、暴力団の集会を禁止するという看板が設置された。出所は朝方なので、最近では郊外の大規模な店舗の駐車場などが使われる。
当時も放免祝いという言葉はタブーだった。激励食事会と言い換えるのが一般的だ。呼び方が変わっても、その意義は変わらない。長期の服役を終えた慰労会であり、これからの人生の手助けになるよう、祝儀が集められる。これらの祝儀が当人に渡るかどうかは組織次第で、経費を引いた残りを手渡すケースが多い。
このときはサッカースタジアムの真横にあった空き地に街宣車が三十数台並び、ステージまで設置されていた。当節、めったにお目にかかれない派手な放免祝いだった。ステージの中央に向かって、2列に組員がざっと100メートルほど立ち並び、出所した総長はその間の花道を通って壇上に進んだ。その周囲にはおおよそ100台以上の高級車が集結し、他団体の参列者が喝采を送っていた。私が取材した放免祝いでは、最大規模だろう。興奮して撮影し、バシャバシャとシャッターを切ったのはいうまでもない。