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万年東一の思い出

 ママにかかればヤクザだろうが愚連隊だろうが容赦ない。どれだけ悪態をついても、嫌な気分にならないのは人徳だろう。加納のことも、その系列の親分筋だろうと、ママにかかれば子供だった。愚連隊ほどタチの悪いものはない。ヤクザのほうがずっとまともだ、それがママの実体験だった。

「そうねぇ、いろんなお客さんがいたわね。

 伊勢丹の脇に新富ゴルフがあって、その横っちょに極東の三浦さん(三浦周一。極東会の大親分)がやってる進駐軍専門の飲み屋が2軒あったから、そこの女の子たちが昼間サンドイッチを食べにきたわ。彼女たちはパンツなんかはかないの。暑くなると短いスカートをパタパタやるもんだから、スケベな男がたくさん来た(笑)。

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 万年会長(加納や安藤の親分筋に当たる万年東一。愚連隊の神様と呼ばれた)とは不思議な縁があったの。うちの親戚が目黒区の祐天寺の近く、いまのヱビスビールの辺りに家作を持っていて、そこに学生時代の万年会長が住んでいたんだって。とにかく暴れ者だったから不良たちから嫌われていたらしいけど、絶対に堅気の人はイジメなかったからね。昔の男は侠気があったのよ。私は知らないけど、うちの母とよく昔話をしていたわ。『あの暴れ者が、こんないい男になってねぇ』なんて言われて、会長も楽しそうに笑ってた。

 でもね、万年会長のとこの若い衆はみんなだらしがないの。万年さんが優しくて、なにも言わないから、なめちゃってるのよ。とにかく、よほどのことをしないと注意なんてしないでしょ。『うん、うん』言って、それで終わっちゃうから、若い衆が手当たり次第に借金したりするわけね。

堅気には絶対に手を出さなかった加納貢

 加納さんはあまり口をきかないけど、若い衆があまりひどいことをすると、裏手でガツンとやってくれる。うちの息子なんか偶然その場を見かけたらしいけど、トイレでぶっ飛ばされた若い衆が反対の壁まで吹っ飛んでいったんだって。あの人はどこからお金持ってくるのかしらないけど、勘定は綺麗だったわ。

©iStock.com

 とにかく加納さんは優しいのよ。店のすぐ前に大三元っていう雀荘があって、うちにきてた学生が3人ぐらいでイカサマやって加納さんをカモっちゃってさ。それでも加納さん、騙されたのを分かってるのに、ちゃんとお金払うんだもの。手持ちがないときは時計出して『これもあげてこい』なんて。そんな人だから、『みっちゃん、みっちゃん』って大事にされて、甘えちゃうのよね、みんなが。

 でも、その学生たち、それに味を占めて、今度は安藤(昇)さんをカモにしようとしたの。あの人はズルを絶対に許さないもの。こてんぱんにされて、大怪我したんだって。ちょっと可愛そうだけど、自業自得ね」