「日本という国は、そうそう簡単に軍隊を出さない」
リーダーは、日本の国土地理院が発行した精巧な魚釣島の地図を広げて言った。
「水場さえ押さえれば、長期籠城が可能になる。2ヶ所で井戸を作り終わったら、灯台付近に戻る。13時には戻れるだろう」
「高い場所に水場を確保することと、長期籠城とどんな関係があるんですか?」
「この島の急峻な山に夜間パラシュート降下はできない。昼間にヘリで来れば狙い撃ちだ。となれば、海から、要するに下から来るしかない。こっちが山にいれば、上から攻撃ができて絶対的に有利だ。食糧のヤギはどこででも手に入るんだから。高いところに水場を確保していれば、そこを拠点にできる」
「わかりました。日本の軍隊はどの段階で動きますか?」
「日本という国は、そうそう簡単に軍隊を出さない。最初は警察、おそらくコースト・ガードだ。それを出すのにも時間がかかる」
「具体的にいつ頃と予想していますか?」
「明るくなって水平線が見えてくるのは朝の5時くらい。コースト・ガードが灯台の中国国旗に気づくのは、完全に明るくなる日の出以降。早くて6時過ぎだ。これが東京に報告され、大騒ぎになり、議論の末に出動命令が下るのは半日後だ。奴らが灯台付近に来るのは夕方、どんなに早くても15時だろう。だから、我々は水の確保がうまくいかなかったとしても、15時までには灯台に戻る」
絶対に殺してはいけない
リーダーの淀みのない説明に、4人は頷いていた。
「コースト・ガードは旗を日本国旗に戻すため、灯台付近に来る。そこを攻撃する。ただし、絶対に殺すなよ。怪我までだ」
4人のうちの一人が質問した。
「反撃して来たらどうするんですか? 手負いの獣ほど恐ろしいものはない」
「撃ち返しては来ない。現場が撃とうとしても、日本のトップが絶対に許可しない」
今度は、別のメンバーがリーダーに食ってかかった。
「許可しないって、そんな……。そうしたら、ただ撃たれるだけです。それでも日本は許可しないんですか? 第一、そんな指示に日本人は従うんですか?」
「そうだ。日本人は、信じがたいくらい権威に弱い。上位者からのどんな指示にでも黙って従うから、政治家や官僚は現場の者に命があることを忘れてしまっている。それにすら異を唱えないのが日本人だ」