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アンコールももちろんあり。最後の一曲は……

 ライブも終盤に入ると、「エロティカ・セブン EROTICA SEVEN」からアップテンポな曲が続いて聴く者の気持ちは煽りに煽られ、サザンのデビュー曲「勝手にシンドバッド」でクライマックスを迎える。空いている客席をまた活用して、席の合間をダンサー、そして法被姿やピエロ、チアガールなどに扮したスタッフが踊り回った。

 ステージにいるサザンメンバーだけじゃない。スタッフが文字通り総出で盛り上げ、つくり上げているステージなのだということが、ひと目で理解できるシーンだった。たしかにこんな最高のスタッフに対して、メンバーが繰り返し感謝を捧げたくなる気持ちはよくわかるのだった。

 通常のライブと同じく、アンコールももちろんあり。最後の一曲は「みんなのうた」だ。

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 歌詞の合間に何度も何度も、桑田は、

「画面越しのみんな、あ・り・が・と・なーっ!」

 と呼びかけ、感謝の意を届けた。

 

 全22曲のライブは、疾走感と躍動感に満ちたものになった。演奏、歌声、舞台演出などすべてにおける最高レベルのパフォーマンスは、これに触れた人たちがいろいろなものを思い起こし、取り戻すきっかけになったんじゃないか。

 それはたとえば、大きな目標である。

 今回のライブは、無観客であればこそ、場のノリよりも音楽や演出の質の追求に集中できた面はあったはず。現下の状況ですべてのエンターテインメントはさまざまな制約が課せられるが、そんな中でも「いいもの」を探究するすべはある。サザンが「らしさ」を存分に発揮したこのライブは、あらゆる音楽家やパフォーマーが憧れ、嫉妬し、めざす指標となったのではないか。

 さらには、素直な気持ちの大切さも。

「サザンオールスターズ official」より

 桑田佳祐はライブを通して、本当に何度も「ありがとうございます」と言葉を重ねた。照れずに「ありがとう」を伝え、感謝の意を示すというのがいかに気持ちのいいことか。さまざまな立場の人に感謝する機会の増えている昨今に、素直な気持ちの表明の大切さを改めて教わった思いだ。

 くわえて、私たちは感情をも、取り戻せたのではないか?

 泣きあり笑いあり、ステージはおそろしいほど感情が激しく揺さぶられるものとなった。未曾有の事態に直面して、私たちはどこか感情を停止してしまったり、抑制していたところがありはしないか。社会全体が知らず課してしまっていた感情のリミッターを、サザンの演奏が、おなじみの曲たちが、桑田佳祐の歌声がパチンッ! と外してくれたような気がしたのである。