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執筆者の一言がきっかけとなり……

「ある執筆者の方に、『読者に考える余地を与えないタイトルだ』と言われたんです。では、自分が愛おしいと考える〈ふつうの暮らし〉とは何だろうと考えた時、その姿は一つではない、色々なんだと。さらに気づいたのは、〈丁寧な暮らし〉という言葉を読者とともに再考したい、という気持ちが自分の中にあったことです。否定するわけではなくて、読者の皆さんの思う〈丁寧な暮らし〉ってどういうものですか? と問いかけたかったんですね」

 リニューアル号が発売されると、大きな反響があった。

「この言葉に少し引っかかってもらえたらいいな、とは思っていたのですが、こんなに意見を頂くとは思っていませんでした。それだけ、〈丁寧な暮らし〉という言葉に好感を持っている人もいれば、反発や疑問を覚えている人もいるんだな、と改めて感じました。読者からの肯定的な意見としては、〈丁寧な暮らし〉が消費される言葉、商売のためのコピーになっていたのではないか、暮らしは一人ひとりが違っていいし、あるスタイルに集約できない豊かさを持つものだ、というものが多かったように思います。創刊以来の読者の方にも、エールを送るようなお手紙を頂けたのはうれしかったですね。一方で、ご自分が大切にしてきた暮らし方を否定されたように感じた方もいらしたのは確かです」

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『暮しの手帖』には、政治や介護、メイクアップ等の記事も掲載されており、「暮らし」が含むものの幅広さを改めて感じさせる。

「政治やメイクの記事は求めていない、という声も頂きますが、それは一人ひとりの価値観だと受け止めています。ただ、例えば政治は、介護や教育など、誰の暮らしにも関わる根っこであり、誰もが無関係ではいられないはずだと考えれば、誌面で伝えられることもあるかもしれない、と。私自身は、『暮しの手帖』を、他人に流されず、自分の暮らしを工夫して楽しめる人のための雑誌だと思っています。自分とは異なる意見にも耳を傾け、思いを言葉にする努力ができる人たちが読んでくれているはず。そう信じているし、そんな読者に見限られないように頑張りたいと思っています」

きたがわしおり/1976年生まれ。住まいづくりの雑誌の編集部等を経て、2010年に暮しの手帖社入社。17年に『暮しの手帖』副編集長に就任。20年1月24日発売号から9代目編集長。

INFORMATION

雑誌『暮しの手帖』
http://www.kurashi-no-techo.co.jp/