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「もっと狂え!」阿部寛は怒鳴られた

 1993年にオーディションを勝ち抜いて『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』の主演に抜擢された阿部寛もまた、つかから役者として自信を抱かされたひとりだ。モデル出身で、それ以前にもすでに映画やドラマに出演していた阿部だが、演じるのは典型的な二枚目ばかり。それも世代交代が来るとそういう役は若い役者に行ってしまい、少しコミカルな役どころへとスライドしていった。そのなかで彼は「このままだと、俳優として終わっちゃうんじゃないか」と悩むことになる(※3)。『熱海殺人事件』のオーディションを受けたのはそんな時期だった。そこで彼が得たのは、元五輪選手でバイセクシャルの刑事という役どころだった。それはあまりにも型破りなキャラクターで、つかからの要求も多く、稽古場には毎日、きょうこそは「もうできません」と伝えるつもりで通ったという。稽古中には「もっと狂え!」とつかに怒鳴られたこともあった(※4)。だが、いざ公演が始まると、ただの二枚目俳優からひと皮もふた皮も剥けた阿部に観客は驚いた。のちに彼は、この公演で《僕の本当の俳優人生が始まったと言ってもいい》と振り返っている(※3)。じつはこのとき、つかは周囲から大反対されながら、賭けるような気持ちで阿部を起用したらしい。本番のあと、つかから「俺たちは賭けに勝ったな」と笑顔で言われたのが、阿部はうれしかったという(※4)。

阿部寛 ©文藝春秋

草彅剛「つかさんは、超能力を持っている」

 90年代には当時国民的人気を誇ったSMAPのメンバーもつか作品に挑戦した。1997年には稲垣吾郎が18年ぶりに再演された『広島に原爆を落とす日』(いのうえひでのり演出)に、さらに1999年には『蒲田行進曲』に草彅剛が出演している。とくにつかから直接指導を受けた草彅は、この体験は大きな財産となった。つかの没後、彼はこんなことを語っている。

稲垣吾郎 ©文藝春秋
草彅剛 ©文藝春秋

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《つかさんは、超能力を持っているみたいなところがあって。見てないことや、未来のことがわかる。(中略)その頃につかさんから言われてもわからなかったいろんなことが、今になってようやくわかってきた。こんなにいろんな役をやらせてもらえるようになるとは当時の僕は思わなかったのに、つかさんにはわかってたんだな、って気がして。すごくたくさんヒントをもらっている》(※5)