オンラインハラスメントの対策はあるのか
オンライン上の嫌がらせ、暴力にあってしまったらどうすればいいのだろうか。私たちはこうした悪意に個人としてどう対応すればいいのだろうか。
攻撃は主に匿名でアカウントが持てるTwitter上で行われることが多い。しかもRT(リツイート)と言われる機能によって、無責任で暴力的な誹謗中傷は無限に拡散していく。
前出の仁藤さんはTwitter社に報告して攻撃してきたアカウントを凍結してもらったこともあったが、執拗に攻撃する人は複数いて、“いたちごっこ”のような状況が続いている。
さらに問われるべきはTwitterなどプラットフォームの責任だ。
仁藤さんはTwitter社に対して同級生を名乗っていた匿名アカウントの発信者情報開示請求を行ったが、Twitter社は「情報を一切保有していないことが判明した」「したがって、本件申立ては直ちに却下されるべきである」と回答。仁藤さんの弁護士らがIPアドレスの保存期間や情報を保有していない理由について尋ねたが、明らかにしていないという。東京地裁での弁論期日もTwitter社側は欠席し、請求は却下された。
特にオンラインハラスメントの被害が多いTwitterでは、Tweetの削除や、仁藤さんのように被害を受けたアカウントの発信者情報を開示する仮処分申請を裁判所に申し立てることができる。
だが前にも書いたように、仮処分が認められても、開示されるのはIPアドレスだけ。個人の特定には日本のプロバイダに対して開示を求めなくてはならない。通常、IPアドレスの保存期間は3~6カ月と言われる。その期間内に二つの裁判をする必要があるため、スピードが勝負となる。
さらなる高いハードルは、これらはすべてTwitterのアメリカ本社相手、だということだ。アメリカから資格証明書(商業登記簿)を取り寄せ、書類を翻訳しなければならない。仁藤さんの代理人を務める神原元弁護士によると、資格証明書とその翻訳で約6万円、申し立て書の翻訳で5~10万円、弁護士費用などを含めると、一つのアカウントを特定するために約50万円はかかるそうだ。
本人の作業としては、Tweetをスクリーンショットに撮り、URLを保存しなければならないが、自身への誹謗中傷を改めて見なければならないため、精神的な負担はかなりのものだ。
「今、東京地裁の保全係が扱う仮処分申請の大半はSNS関係の裁判だと言われています。それくらい被害は深刻ですが、一方で、泣き寝入りしない人も増えてきたということです。ただ、高額な費用や何度も裁判をしなくてはならないなど民事訴訟は被害者の負担が大き過ぎる。
女性やマイノリティが狙われているのは明らか。悪質な投稿には罰金や懲役などの刑事罰を課し、警察が犯人を捜査できるよう法整備すべきです。ネット上のモニタリングや差別的な投稿を削除できる仕組みも整えていく必要があります」(神原さん)
すでにドイツにはSNSなどの運営企業に対して、ヘイトなどの違法な書き込みを放置した場合、最大5000万ユーロ(約67億5000万円)の罰金を科すことができる法律がある。Twitter社によると、2016年に日本の法的機関などから1709件の情報開示請求があり、そのうち約62%は何らかの情報が開示されている(『透明性に関するレポート』より)。