一度ネットに書き込まれた情報は「デジタルタトゥー」
同社の『執行機関/捜査機関向けガイドライン』には、「請求された情報の範囲が広すぎる場合は絞り込んだり、捜査の内容が不明確な場合には背景の説明を求めたり、さまざまな理由で請求を差し戻すことがあります」と記されている。これ以外にどんな場合に請求を差し戻すか筆者(竹下)が問い合わせたところ、「個別の事案に関しては回答していません」(同社広報部)とのことだった。
仁藤さんの弁護士でもあり、オンライン上の被害にも詳しい神原弁護士はこう話す。
「仁藤さんの裁判では、匿名アカウントの発信者情報を開示させるために迅速に対応したにもかかわらず、Twitter社は東京地裁にも出頭しなかった。これでは被害者の救済も名誉回復もできません。IPアドレスの保存期間も含めて法整備が必要です」
仁藤さんも仮処分申請が却下されたことを受けてこう話す。
「こんな展開になるとは思っていなかったので、驚きました。Tweetは事実じゃないと証明したいのに、その手段すら絶たれたということですよね。匿名の悪意にこれからどう対抗していけばいいんでしょうか……」
前出のケースで取り上げた弁護士の伊藤和子さんもTwitter社に対して発信者情報の開示請求を行っている。
「発信者情報開示請求の手続き自体が非常に複雑で、最終的にたどれない場合もあるのは問題だと思います。SNSなどのプラットフォームは最後まで個人が紐付けされるようなシステムにすべきで、企業がそれをしないのであれば、プラットフォームの責任者が罪に問われるような法整備が必要ではないでしょうか」(伊藤さん)
「デジタルタトゥー」と言われるように、一度ネットに書き込まれた情報は、まとめサイトや掲示板などさまざまな方法で拡散され、全てを消すのはむずかしい。
伊藤さんが取り組んでいるAV出演強要問題は、総務省が啓発したり相談窓口を設けたりするなど、国が対応することで改善してきた。現在は、プラットフォームに出演を強要された作品の削除を要請すると多くが対応するそうだ。
「やはり国が法をつくったり方針を示したりすべきです。政府もAV強要問題や児童ポルノ、リベンジポルノの問題には取り組むようになりましたが、もっと女性の人権全般に対象を広げて欲しいです」(伊藤さん)
Twitter社とのやりとり一つとっても、個人で戦うには精神的にも時間的・金銭的にも非常に負担は大きい。だから深刻な被害を受けても泣き寝入りをせざるを得なかったり、もっと言えば、自ら発信することもやめてしまったり……。そうなれば攻撃側の思うツボだ。
先の女性たちのように記者会見という形で被害が収まったケースもある。声を上げること、戦う姿勢を示すこと。苦しくてもやはり女性たち自身が行動を起こすこと。本来は法制度などももっと整えるべきだが、そのためにも声を上げる、そして声を上げた女性たちを支援する仕組みが必要だろう。
※Twitterの引用箇所などで一部不適切な表現が含まれていますが、被害の深刻さを伝えるためにあえてそのまま掲載しました。
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