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「この“産業”は、血の通った仕事だと自負しています」三浦春馬が最後の舞台公演で語ったこと

舞台『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド』

CDB

2020/07/22
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 三浦春馬はまずそう言って、子役たちへの拍手を観客に求めた。『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド』の子役はWキャストで2組の交代で演じられ、赤組と彼が呼んだのは昼公演を務めた子どもたちのことだった。夜はWキャストのもう一方の子どもたちが演じるため、彼らは夜公演には出演せず、昼が最後の出演となる。公演打ち切りの無念や自分の心情を語る前に、何よりもまず先に三浦春馬はまだ幼い彼らへのポジティブな祝福と拍手を観客に求めた。 

「たくさんの笑顔と無邪気さをくれて、いつも勇気づけられた、そんな毎日だったなと思います。ありがとう」

 三浦春馬はそう子役たちに礼を述べ、観客は再び拍手をした。公演打ち切りに対する大人たちの無念さが子どもの心に暗い影を落とさないよう、幼い彼らがこの舞台を祝福された成功として記憶できるように、「おめでとう」「ありがとう」という言葉を散りばめた、教師のように気遣った配慮だったと思う。 

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三浦春馬からの突然の指名に驚いたベテラン舞台俳優

 それから三浦春馬は同じくWキャストで昼公演が最終出演となる平間壮一とMARIA-Eを紹介した。平間壮一のことは「壮ちゃん」と呼び、MARIA-Eのことは「Eちゃん」と呼んでいたと思う。MARIA-Eはマスクの上から見える観客の目が輝いて見えたと語り、平間壮一も観客からパワーを受けたことを語り、観客への感謝を述べる2人にも観客から大きな拍手が贈られた。 

 その後に三浦春馬が挨拶を求めたのは、ブーン役を演じた福井晶一だったと思う。劇団四季時代から『美女と野獣』のビースト役、退団後は『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャン役などの大役をつとめてきた実力派のベテランは、三浦春馬に突然コメントを振られて戸惑った様子だった。

 遠慮する彼に、三浦春馬が「千穐楽を皆様と一緒に迎えてくださったので」と食い下がると観客から大きな拍手と暖かい笑い声が起こり、福井晶一は「びっくりしてるんですけど……」と苦笑いしながら挨拶に応じた。

「不安の中、どうなるんだろうという思いで稽古を重ねてきたわけですけど、やれる限りの対策を講じて初日の幕を開けてくれた東宝さんとアミューズさん、そして慎重に対策をして足を運んでくれた観客の皆さんに感謝します」

 そして三浦春馬と同じように子役たちを紹介し「未来を変えるのも、これからの演劇を支えていくのもここにいる子どもたちで、その未来を絶やしてはいけないと思っています。演劇を愛するものみんなでこの危機を乗り越えていきたいと思います、皆さんもよろしくお願いします」と福井晶一が頭を下げると、観客からは大きな拍手が起きた。 

 それから三浦春馬はスワローを演じた生田絵梨花に挨拶を求めた。ヒロイン役を演じた彼女までが一瞬驚いていたことからすると、本来はこの昼公演で挨拶をするのは三浦春馬とWキャストの昼組のみで、夜も出演する生田絵梨花と福井晶一が挨拶をする予定はなかったのかもしれないと今考えれば思う。