1969年作品(100分)/オフィス ワイケー/レンタルあり

 拙著最新刊『日本の戦争映画』(文春新書)が発売された。

 この本では、戦後に日本で作られた戦争映画の変遷を、作り手たちが込めた想いと共に追いかけている。その検証のため、外出自粛期間に約八十本の戦争映画を観直した。

 そこで気づいたことがある。最も多くの作品に主要キャストとして出演している俳優は、確実に藤田進だろう、と。映画会社、役の大小を問わず、そこここに藤田進がいた。

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 堂々とした重厚な体躯、岩石のような面相、厳しく鋭い目つき、朴訥とした口調――その様は軍人役なら何でもはまり、大臣・司令官クラスから前線の隊長や軍医や一兵卒役に至るまで、全て演じている。彼がそこにいるだけで、映し出される空間が戦時中であることのリアリティが一気に増しているようだった。

 軍人役者――その呼称が最も似合う役者である。

 今回取り上げる『あゝ陸軍隼戦闘隊』では、「軍人役者」藤田進の真骨頂ともいえるシーンに出会うことができる。

 日中戦争から太平洋戦争初期にかけて名を馳せた加藤建夫率いる戦闘機隊、通称「加藤隼戦闘隊」の結成と活躍が描かれた作品で、加藤役を佐藤允が演じている。

 ここでの加藤は、部下想いの豪傑という役柄。そのため、部下たちの死に対しても強い責任感を持って心に背負い込む。佐藤允のギリギリまで心情を抑える演技が痛切だった。

 こんな場面がある。加藤は、戦死した部下の実家に、仏壇に手を合わせにいく。ここでも、部下の死に責任を感じ、加藤は沈痛の面持ちでいる。そんな加藤を、部下の父親が励ます。そして、この父親役を藤田進が演じていた。出番はここのみ。それでも、強い印象を残している。その場に加藤の妻子がやってくる。だが、加藤は再会を喜ぶどころか激昂し、「お前の来るところではない!」と突き放す。その瞬間、それまで穏やかだった父親の口調が一変、「退役軍人」の立場から、強くこう一喝するのだ。

「貴様の先輩として忠告する! 貴様は妻子への情愛を黙殺することが戦死した部下に対する供養になるとでも思っとるのか! たわけもの! もっと生身の人間らしくなれ。それが他ならぬ軍人の道でもあるんじゃ」

 ここでの藤田の厳然とした居ずまいや表情や口調が、本当に歴戦をくぐり抜けてきた「退役軍人」にしか見えないため、抜群の迫力を放つ。そのことが、私情を捨てることを美徳としがちな軍にあってもヒューマニズムを尊ぶべし――という痛切なメッセージに、「たしかに、その通りだ」と思わせるだけの強い説得力をもたらすことになった。

日本の戦争映画 (文春新書 1272)

春日 太一

文藝春秋

2020年7月20日 発売