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 火ドラは恋愛ドラマであっても、こうした価値観の多様性が描かれる。現代は昔よりも女性を取り巻く価値観が複雑で「ハンサムな男性とすれ違いを繰り返しながら真実の愛を見つければ幸せ」という時代ではない。そんな空気を上手く掬い上げて、恋愛ドラマに“新時代のリアリティ”を加えているのだ。

2019年

『初めて恋をした日に読む話』深田恭子×横浜流星

『わたし、定時で帰ります。』吉高由里子主演

『Heaven?~ご苦楽レストラン~』石原さとみ主演

『G線上のあなたと私』波瑠×中川大志×松下由樹

 

2020年

『恋はつづくよどこまでも』上白石萌音×佐藤健

『私の家政夫ナギサさん』多部未華子×大森南朋

“許されざる恋愛”の中でこそ際立つ“純粋な恋愛”

 肝心の恋愛で揺れ動く女性の心理描写も巧みだ。

 『あなたのことはそれほど』(2017年)では不倫への非難の声が続出したし、『中学聖日記』(2018年)でも女性教師と教え子の恋に嫌悪感を抱く人が多数いたが、登場人物のただひたすらに好きな人を思う純粋な気持ちに心打たれる人も多かった。“許されざる恋愛”を単なる刺激的題材として扱うのではなく、その渦中でこそ際立つ“純粋な恋愛”がしっかり描かれていた。

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『あなたのことはそれほど』(2017年)

 かと思えば、火ドラは“ザ・少女漫画”な恋愛ファンタジーも上手い。

『はじこい』(2019年)では完璧なルックスと繊細な演技で横浜流星(23)が演じるピンク髪の「ゆりゆり」が、深田恭子(37)演じる塾講師に対して甘えるように言うセリフ「先生、俺にもご褒美下さい」や、塾の強化合宿中に漏らした本音「キツイです。好きな人が四六時中そばにいるんで」には多くの女性が熱狂。

 そして、ベタなストーリーでありながら、恋愛テクてんこもりで、まるで佐藤健との恋愛シミュレーションゲームを楽しんでいるような感覚に陥らせた『恋つづ』。どちらも王道ながら、キャラクター造形や見せ方、演出で完全にファンタジーに振り切ることで、違和感なく“胸キュン”を楽しむことができた。

『初めて恋をした日に読む話』(2019年)の深田恭子(左)と横浜流星(右) ©︎AFLO

 火ドラは使い古されたセオリーを捨て、安直なテーマや手法に頼らず、複雑になりすぎた現代の恋愛を複雑なままエンタメに昇華しているのだ。