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「先生、俺にもご褒美下さい」不倫、年の差、禁断愛……TBS「火ドラ」を恋愛ドラマの定番にした“胸キュンセオリー”

逃げ恥、ぎぼむす、恋つづ、わたナギ……

2020/07/28
note

現代の空気や価値観に合う「愛」の描き方

 そんななかで独自路線を守り続けるのが火ドラなのだ。火ドラは、ほぼ一貫して「恋愛」「愛すること」を描いているが、あくまで現代の空気や価値観に合うかたちで提示している。

2017年

『カルテット』松たか子×満島ひかり×高橋一生×松田龍平

『あなたのことはそれほど』波瑠主演

『カンナさーん!』渡辺直美主演

『監獄のお姫さま』小泉今日子主演

 

2018年

『きみが心に棲みついた』吉岡里帆主演

『花のち晴れ~花男 Next Season~』杉咲花×平野紫耀

『義母と娘のブルース』綾瀬はるか主演

『中学聖日記』有村架純×岡田健史

『逃げ恥』の新垣結衣 ©︎AFLO

 例えば、『逃げ恥』(2016年)。新垣結衣と星野源演じる男女2人の契約結婚から始まる“ムズキュン”を描く一方で、女性が無償で家事育児を担うことを正当化する“愛情の搾取”や、やりがいがあれば労働に正当な対価を支払わないという“やりがい搾取”といった、社会問題を斬る言葉が登場。こうした搾取は現実の恋愛や結婚ではよく起きているが、いままではドラマで描かれることはなく、モヤモヤした思いを抱えていた女性が多かったのだろう。多くの共感を集めた。

『逃げ恥』の星野源 ©︎文藝春秋

恋愛ドラマのなかで価値観の多様性を描く

 現在、放送されている『私の家政夫ナギサさん』(2020年)も新しい問題提起をしている。

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 主人公は「お母さんになりたい」という夢を母親に否定され、母親に認められたい一心で仕事を頑張ってきた。しかし、「お母さんになりたかったから家政夫になった」という元エリート会社員のおじさん家政夫に出会ったことで、様々な気づきを得る。社会進出が当たり前になったことで、現代女性たちが仕事至上主義になってはいないか、家事を仕事より一段下のものとして見てはいないか、という疑問が付きつけられるのだ。

『わたし、定時で帰ります。』(2018年)公式サイトより

『わたし、定時で帰ります。』(2018年)も素晴らしかった。

 タイトルからはワークライフバランスを重視した働き方こそが正しいのだというメッセージを受け取るが、登場人物の仕事に対する思いはそれぞれ。なかでも、働き方改革全盛のこの時代において、ユースケ・サンタマリア演じる“ブラック上司”の「仕事にすべてをかける喜び」が描かれたことは強烈な気づきとなった。また、部下の失敗もすべて解決してくれる向井理演じる“理想の上司”は、仕事熱心すぎるゆえに職場全体の働き方改革を阻害する原因としても描かれていた。