しかし、火ドラの大きな魅力はほかにある。それはフジテレビの月9が手放した、F1層(20~34歳の女性)が主人公の恋愛ドラマを真っ向から作り続けていることだ。
90年代の“ときめきセオリー”には違和感
月9人気が凋落して以来、恋愛ドラマの存在感が悲しいほどに小さくなってしまった。当時、恋愛ドラマ人気を支えていたのは女性たちだったが、時代を経るにつれ、彼女らの価値観は激変した。仕事で自己実現を果たす女性が増えたことで恋愛や結婚の優先度が下がり、変わりに仕事の悩みが増えた。かつてはいかにドラマチックな恋愛をして運命の人と結ばれるかが人生においてとても重要だったが、現代ではそんなにシンプルに恋愛だけに身をゆだねることはできない。
そうした変化で、トレンディドラマの“ときめきセオリー”に違和感がでてきたのだ。
かつては胸を焦がしながら観ていた『東京ラブストーリー』(フジテレビ系・1991年)。街中で公然とカップルがイチャつくシーンや、オフィスではばからずに私用電話をしては恋バナを繰り広げるシーンはいい大人の態度としてちょっと……という気になる。『愛していると言ってくれ』(TBS系・1995年)でも、相手の在宅や都合を確かめずに無鉄砲に飛び出し、家の前で待ち伏せするシーンなどは、いま観るとときめくというより怖い。
しかし一時期は90年代のドラマ黄金期のセオリーをそのまま踏襲した恋愛ドラマも制作された。3人の美女からモテまくるという20代の俳優がやるようなラブストーリーを40歳近くで木村拓哉(47)が演じた『月の恋人~Moon Lovers~』(フジテレビ系・2010年)や、福山雅治(51)と藤原さくら(24)という親子ほどトシの離れた恋人との茫洋とした恋愛をPV風に撮影した『ラヴソング』(フジテレビ系・2016年)など……。彼らがまだ若い頃であれば面白かっただろうとは思うが、“古い”感じは否めず、視聴率にも結び付かなかった。
そこで増えてきたのが、テレ朝の『相棒』や『ドクターX~外科医・大門未知子~』に代表されるような「一話完結」「勧善懲悪」「医療モノ・刑事モノ」路線。しかし一話完結はどの回から観ても内容がわかる強みがある一方で、全体としての盛り上がりに欠ける。勧善懲悪の物語は、スッキリするがマンネリ感が否めない。医療モノ・刑事モノはやり尽くした感もあり、『アンナチュラル』のヒット以降は、『監察医 朝顔』『インハンド』『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』など、ニッチな方向にシフトしてきている。