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松本清張が内部資料を入手して書いた小説

岸俊光氏

 松本清張(1909~92)は内調の内部資料を入手し、それを基に小説『深層海流』を執筆、六一年に『文藝春秋』で連載しています。あくまでも小説ですが、国家の諜報機関の内部抗争や政官界の派閥争いなどがリアルに描かれ、前年発表の占領下の日本の重大事件を書いた『日本の黒い霧』に続いて話題を呼びました。連載終了後、同誌に「情報それ自体の蒐集は、国策を運営する上において当然のことだ。ところが、内調の役目がその辺を逸脱して謀略性を帯びていたとなれば、少々見逃すわけにはいかない」という小文を寄せています。

 連載は単行本として文藝春秋新社から刊行され、後に『松本清張全集第31巻』に収められています。ともに収められた『現代官僚論』でも内調について取り上げていますので、ここでは全集のほうをセレクトしました。

ジャーナリスト吉原公一郎のレポートと小説

 ジャーナリストの吉原公一郎(1928~)は清張より少し早く内調の元職員から内部資料を入手していました。すぐに『中央公論』60年12月号に寄稿した『内閣調査室を調査する』は、内閣調査室がアメリカの強い影響下で組織の拡充と人員の育成に努めている様相をあぶり出し、この組織が戦前の内閣情報局の再来になることを危惧した、当時最も内調の実態に接近したレポートであったと思います。

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 63年に出版した『小説日本列島』では、内調をCIAとつながりのある謀略機関であると糾弾しています。小説を謳いながら流出資料がそのまま引用され、つまり吉原は政府の極秘文書を世に出すために小説を書いたわけです。

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 極秘文書は段ボール三箱ほどもありました。それでも内調の全貌を暴くには十分ではなく、清張も吉原も部分的にフィクションを交えて小説の形態でしか描き得なかったのです。