それは、今まで地下アイドルの活動を応援してくれていた母親が、その日から早く辞めなさいと言ってくるようになったといいます。
私はこの時、少し恐怖を感じました。といいますのも、お母さまか、娘さんかのどちらかが、嘘をついておられることになるからです。いや、どちらかが言わされているという表現の方が正しいのかも知れません。
もう少し娘さんのお話をお聞きして、見極めようとしたその時です。
突然お寺の電話が鳴りました。
まるで男性のような怒鳴り声で……
娘さんに待っていただき、私は受話器を取りました。電話の相手は、お母さまでした。
「ご住職、娘に地下アイドルを辞める様に説得いただけましたか」
「まだお話し出来ていません」
そう私は答えました。
すると突然「さっさとアイドルを辞めさせろ」と、まるで男性の声で怒鳴られました。
「少しお待ちください」
私はそう言って電話を切りました。
すぐに待たせていた娘さんのもとに戻り、ストーカーの男性の供養をしましょうと、お塔婆を建て、お香を焚き、静かに読経をいたしました。
その後、娘さんからお母さまの様子は落ち着かれたと、ご連絡いただきました。
ファンの方が、死後も彼女のことを独り占めしたくて、今回のような事が起こったのかも知れません。
他人を好きになるということは、相手の幸福を願う事です。好きな相手が幸福でいてくれる事が、自分にとっての幸福でなくてはいけませんね。
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