文春オンライン

終戦、75年目の夏

瀬戸内海の「毒ガス島」で廃墟を巡る…火炎放射器とウサギが語りかける“歴史の傷跡”

瀬戸内海の「毒ガス島」で廃墟を巡る…火炎放射器とウサギが語りかける“歴史の傷跡”

“地図から消された島”と戦争の記憶

2020/08/14
note

巨大な廃墟と化した“発電所跡”

 島に上陸して歩いてみると、思った以上に当時の痕跡が残っていることに気付いた。ひとしきりウサギを堪能したあと、最初に訪れた戦跡は発電所跡だった。ここでは重油を動力に8基のディーゼル発電機により発電し、軍需工場に電力を供給していた。

 島内で最も大きな遺構で、見た目は完全に廃墟だ。朽ちて色あせたコンクリート。割れた窓枠にはガラス片が残っている。使われなくなってから70年以上も経った巨大な廃墟は、外観だけでも非常に見応えがある。

発電所跡。外観は完全に廃墟だ
 

 事前に立入許可をもらっていたので中にお邪魔すると、見た目以上の壮大さに驚かされた。外から見ると3階建てのように見えるが、内部は大きな一つの空間になっていて、天井がとても高い。機械類は全て撤去されているが、そのため、余計に広く感じる。

ADVERTISEMENT

内部は大きな一つの空間になっている
ここでは8基のディーゼル発電機が稼働していた

 廃墟の魅力は、単なる構造物の造形や廃退美だけではない。廃墟を見ながら、建物が現役だった当時の姿や、そこにいたであろう人々の動きや心情を想像する時間こそ醍醐味だ。大久野島ではそれに加えて、戦争や毒ガスという特殊な背景が、我々の好奇心を刺激する。